批評サムライ  ~映画・ドラマ・小説・エンタメ ★斬り捨て御免!~

責任が何でも曖昧なこの国で娯楽くらいは白黒ハッキリ!大作も小品もアダルトも興業収入も関係ない。超映画批評にない「上映途中の居眠り」が特技。シネマハスラー宇多丸氏、たまむすび町山智浩氏、シネマストリップ高橋ヨシキ氏を見習って公開初日最速レビューを心掛け評価は点数制。地方在住フォトグラファーがど田舎のシネコンでネタバレあり&あらすじ&見たまま感想ブログ

映画「ハウス・ジャック・ビルト」監督トリアーが他映像の大量投入で「自在さ」と引き換えに「傲慢さ」が鼻につく現代地獄巡り

ラース・フォン・トリアー監督の新作は3K(北野武是枝裕和黒沢清)と同じく劇場で見るようにしている。

脚本を自分で書く、アイドルはいない、特撮ない、見えない・見たくない仕組みを描くなど、その作家性と普遍的なアプローチへの信頼がある。

前作「ニンフォマニアック」でトリアー組常連シャルロット・ゲンズブール持ってきて、現代女性の隠された暴力と性依存をあからさまにする中で、噛み合わない不思議な禅問答が随所に挟んで、構成もリズムも欠いたアンバランスさでドラマをぶち壊した。

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今回は期待した。現代シリアル・キラーを通して何を語るか?

アンチクライスト」の救いようのない狂気、「メランコリア」の崇高さが戻ってくる気がした。

九州では公開4日目、JR博多駅シネコンは月曜11時だけど30%入りでおじさん臭漂う中、スタートした。

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あらすじ)

 1970年代の米ワシントン州。建築家になる夢を持つハンサムな独身の技師ジャック(マット・デイロン)はあるきっかけからアートを創作するかのように殺人に没頭する・・・

 5つのエピソードを通じて明かされる、 “ジャックの家”を建てるまでのシリアルキラー12年間の軌跡。

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1話

冒頭から謎の老人と犯人との問答が入って嫌な予感がする。

マット・デイロンと言えばコッポラの「アウトサイダー」とかしか思い出さない。神経質そうで、偏執的な人物描写とスター感の無さはこのドラマ向きだ。

大好きなユマ・サーマンが最初の被害者。

シリアルキラー」のキーワード連発で、犯人をとことん挑発していく表情が素晴らしい。こういう人はスクリーンで見ると美しさが倍増する。

さらに、自分を家を自分で建てる様子が描かれる。

当然何かのメタファーだろう。

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2話目

警官を装って未亡人宅に侵入する。

ここでの会話が秀逸だ。言葉だけでサスペンスが生まれている。

この女優は知らないが50歳前後の幸薄い感じがリアル。

カメラワークが安定させず、上下にどんどん振る感じがドキュメンタリー調で癖になる。

どっかで見たぞ。今村昌平の映画「復讐するは我にあり」だ。

そうか、こいつはアメリカ版「榎津巌」なんだ。

 

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しかし突然この犯人がボード持ってキーワードフィリップを投げ捨てる。

なんだこりゃ。

犯人目線進行の中にカジュアル犯人がジャマをする。

家は作っては途中で壊す。これもメタファー?

これ映画?

映像論文・・・とでもいうべきかな。

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3話目

母と息子2人がターゲット。

酷い殺し方でドラマとはいえ腹が立つ。

どんどん老人対話がドラマに介入、ヒトラーナチスなど現代史事件事故の写真・動画がこの語りに沿って挿入される。

説得力を持たせたいのかさっぱり意図がわからない。

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4話

プレスリーの孫娘女優が乳房を切り取られる。

対話、家壊し、フリップ投げ、現代史挿入が終わらない。

もはやドラマ完全崩壊。

 

最終話

対話老人が現れて、2人で旅に出る。

地獄を思わしい場所へと・・・・

結末はもはや意味がわからない。

 

何の感動も共感もない、2時間半の悪夢。

ポカーンとしたおじさん観客の溜息しか聞こえてこない。

他映像の世界観を自在に扱う魔法使いにでもなったつもりか。

 

ポスターなどビジュアルは、前作と同じ世界一の北欧デザイン事務所制作なので、期待してしまった私がバカだった。

あの比類ない才能はどこへ行ったのか?

もはや本当に枯れてしまったのか?

30点