映画「ハウス・ジャック・ビルト」監督トリアーが他映像の大量投入で「自在さ」と引き換えに「傲慢さ」が鼻につく現代地獄巡り
ラース・フォン・トリアー監督の新作は3K(北野武・是枝裕和・黒沢清)と同じく劇場で見るようにしている。
脚本を自分で書く、アイドルはいない、特撮ない、見えない・見たくない仕組みを描くなど、その作家性と普遍的なアプローチへの信頼がある。
前作「ニンフォマニアック」でトリアー組常連シャルロット・ゲンズブール持ってきて、現代女性の隠された暴力と性依存をあからさまにする中で、噛み合わない不思議な禅問答が随所に挟んで、構成もリズムも欠いたアンバランスさでドラマをぶち壊した。
今回は期待した。現代シリアル・キラーを通して何を語るか?
「アンチクライスト」の救いようのない狂気、「メランコリア」の崇高さが戻ってくる気がした。
九州では公開4日目、JR博多駅シネコンは月曜11時だけど30%入りでおじさん臭漂う中、スタートした。
あらすじ)
1970年代の米ワシントン州。建築家になる夢を持つハンサムな独身の技師ジャック(マット・デイロン)はあるきっかけからアートを創作するかのように殺人に没頭する・・・
5つのエピソードを通じて明かされる、 “ジャックの家”を建てるまでのシリアルキラー12年間の軌跡。
1話
冒頭から謎の老人と犯人との問答が入って嫌な予感がする。
マット・デイロンと言えばコッポラの「アウトサイダー」とかしか思い出さない。神経質そうで、偏執的な人物描写とスター感の無さはこのドラマ向きだ。
大好きなユマ・サーマンが最初の被害者。
「シリアルキラー」のキーワード連発で、犯人をとことん挑発していく表情が素晴らしい。こういう人はスクリーンで見ると美しさが倍増する。
さらに、自分を家を自分で建てる様子が描かれる。
当然何かのメタファーだろう。
2話目
警官を装って未亡人宅に侵入する。
ここでの会話が秀逸だ。言葉だけでサスペンスが生まれている。
この女優は知らないが50歳前後の幸薄い感じがリアル。
カメラワークが安定させず、上下にどんどん振る感じがドキュメンタリー調で癖になる。
そうか、こいつはアメリカ版「榎津巌」なんだ。
しかし突然この犯人がボード持ってキーワードフィリップを投げ捨てる。
なんだこりゃ。
犯人目線進行の中にカジュアル犯人がジャマをする。
家は作っては途中で壊す。これもメタファー?
これ映画?
映像論文・・・とでもいうべきかな。
3話目
母と息子2人がターゲット。
酷い殺し方でドラマとはいえ腹が立つ。
どんどん老人対話がドラマに介入、ヒトラーやナチスなど現代史事件事故の写真・動画がこの語りに沿って挿入される。
説得力を持たせたいのかさっぱり意図がわからない。
4話
プレスリーの孫娘女優が乳房を切り取られる。
対話、家壊し、フリップ投げ、現代史挿入が終わらない。
もはやドラマ完全崩壊。
最終話
対話老人が現れて、2人で旅に出る。
地獄を思わしい場所へと・・・・
結末はもはや意味がわからない。
何の感動も共感もない、2時間半の悪夢。
ポカーンとしたおじさん観客の溜息しか聞こえてこない。
他映像の世界観を自在に扱う魔法使いにでもなったつもりか。
ポスターなどビジュアルは、前作と同じ世界一の北欧デザイン事務所制作なので、期待してしまった私がバカだった。
あの比類ない才能はどこへ行ったのか?
もはや本当に枯れてしまったのか?
30点