映画「エル/ELLE」監督:ポール・バーホーベン 大女優イザベル・ユペールの快演を堪能する、うつの時代の、異常な寛容と快楽主義の不協和音が快感に変わる様を味わえる変態ドラマ
ハリウッド映画ばかりだと、一か八かで失敗作(マミーだの、ワンダー何とかだの)に当たる可能性が最近高い。
そんな中、ヨーロッパ映画で、「ピアニスト」のイザベル・ユペールだし、現代劇だし秋が始まる9月1日の映画の日にはぴったりだ。
もともとポール・バーホーベン作品は好きではない。
「スペッターズ」「ルトガーハウアー/危険な愛」「ロボコップ」「氷の微笑」とか通俗で下品で不快。
無軌道な若者のリアリズムと言えば聞こえはいいがとんがった表現に自己満足してるような志の低さが嫌いだ。
その通俗監督の新作に63歳のイザベル・ユペールとフランス資本で組んだ。
世界が「衝撃」×「絶賛」!! 賞レース席巻の極上エロティックサスペンス。
大げさなキャッチコピーはいつもの宣伝部の大盛りと割り引いても
少しはバーホーベン改心したのか?は気になる。
座席数の少ない名画座の19時はほぼ満員。
あらすじ)
ゲームソフト制作会社社長で独身のミシェル。離婚して息子と母がいる。
突然、自宅に侵入してきた覆面男にレイプされる。警察に訴えることもなく何事もなかったかのように今まで通りの生活を送ろうとするミシェルだが、襲われた記憶がフラッシュバックする。
犯人が身近にいることに気づいたミシェルはその正体を突き止めようとするが、自分自身に潜んでいた欲望や衝動に突き動かされて思わぬ行動に出る・・・
バーホーベンの映画というよりイザベル・ユペール映画だ。
彼女の雰囲気、モード、空気感を楽しむ。味わう。
60オーバーでかわいい、セクシー、わがまま、不道徳、不潔、ふしだら・・
この感覚は20~30代ではだせるだろうか?
熟女が何歳から知らないが、こんな素敵な熟女をスクリーンで見たことがない。
フランス人はこんなにセックスばっかりしてるのか?
親友のパートナーでも、隣人でも、手当たり次第。
羨ましいというよりこれでは人間関係無茶苦茶になるだろうに。
彼女は大量殺人者の娘であることが次第にわかる。
変態ゲームソフト社長でもある。
この2つの影が無軌道に見える彼女の行動を理解させる。
10代で汚名を着せられ、恐らくつらい思春期を送らざるを得なかった。
生きていくのは自立して強くないといけない。
起業しそのゲームはより過激になっていく。
超バイオレンス、変態、下品、不道徳・・
これを60過ぎのおばあちゃん(劇中孫が生まれる)が演じる。
無理してない。自然体で来るものを断らない。
この異常な人の異常な寛容さ、快楽主義が痛快だ。
20代の美女ではない、63歳の老女の姿を通して
この化学変化と不協和音が快感になる。
先進国でヒットする理由がわかる。
物語はどうでもいい。
衝撃の結末もあってもなくてもいい。
犯人が誰かもあまり意味はない。
正解のないうつの時代にうつ映画のストレートをど真ん中に投げてきた。
2大巨匠うつ監督と呼んでいる
ミヒャエル・ハネケ、ラース・フォン・トリアーの系列に並ぶ。
イザベル・ユペール主演がこの映画のすべて。
絶世の美女はスクリーンの沢山いたが
60代でこれだけ輝いた女優を知らない。
例えば「オリエント急行殺人事件」(シドニー・ルメット監督)でカムバックしたイングリッド・バーグマンなど稀にある。
大女優の復活はゲスト扱いか、現役の女感のないおばあちゃん扱いが基本。
50代以上の熟女を主演にしない映画界は不自然だ。
日本にも素晴らしい50代が沢山いる。
沢口靖子、YOU、小泉今日子、真矢ミキ、山口智子、天海祐希、石田えり、中田喜子、片平なぎさ、高橋ひとみ・・・
彼女たちの性愛をスクリーンで見たいといつも思うがそんなドラマは見たことがない。
映画の帰りである女優のニュースを聞いた。
武井咲の「黒革の手帖」の演技が話題になっているは知っていた。
それよりも大手プロダクション所属で、ドラマ主演を張る次期看板女優が
誰が誰だかわからないなんとかザウルに中出しされて即妊娠、結婚の不道徳さは称賛に値するが、23歳の小娘なんかエンタメで見たくない。
この国はいつまで子供文化のままなのか。
30年待って日本のイザベル・ユペールになった武井咲なら見たい
熟女ドラマはもはやヨーロッパからしか来ない。
100点
次回「三度目の殺人」(監督:是枝裕和 福山雅治×役所広司×広瀬すず )