映画「全員死刑」監督小林勇貴 間宮祥太朗、毎熊克哉 傑作「冷たい熱帯魚」の暴力支配の深淵さ表現には及ばないが、大牟田一家4人殺害事件をモチーフにするもどこにもいるDQNの粗暴さを描く。地方都市の裏側のインサートカットがセンスの良さと、清水葉月・護あさなの粗暴さに惹かれるエロチシズムがスパークする。
近年、暴力団抗争と強盗多発地域、.の住人として、2004年に発生した大牟田の暴力団幹部を長とする妻、息子2人(元力士)の殺人一家事件は、近年の修羅の国の誕生を祝うファンファーレ的インパクトで県民に衝撃を与えた。
県民としては忘れたいんだけど、何故こんな一家が誕生したのか?
家族内の支配と被支配の関係は? 被害者の金貸し一家とどこで交差したのか?
わからないことが多かったが遂に闇の一端が映画で明らかになった。
小林勇貴監督作品を全く知らない。町山氏は傑作「冷たい熱帯魚」のスタッフが作ったコメディの傑作と言っていた。
そうだとすればこの作品は暴力の深淵=支配と服従の井戸に深く潜った大傑作に違いない。商業映画初進出ということはこの作品に監督のパワーが全部詰まっているはずだ。期待値は高まる。
金曜に12時、大都市福岡にあって風俗タウン中洲に近いシネコンなのでDQN観客が多いと期待したが・・・若い女子がパラパラと。
これは主演の間宮祥太朗ねらいか?
物語はキャラ立ちのいい4人のドキュメンタリー風で次男の目線で進行する。
いつ切れるかわからない不気味な長男
貧乏くじ引かされて最前線に行かされるボヤキ続ける次男
2人を支配する家長の父
子に犯罪を指示し感情過多の母
この常識も定職も持たない、求めない非道家族が金貸し一家を殺害していく。
初めて見る、間宮祥太朗と毎熊克哉の父親の違う兄弟のアンサンブルがまず面白い。
どんなドラマも生まれる素地満載にもかかわらず、わりとオーソドックスというか抑えた感じがいい。
キューブリックの「時計仕掛けのオレンジ」などバイオレンスはシルエットが名画になるが、小林は「仁義なき」の東映調で昭和な感覚。
特に兄弟の彼女役の清水葉月と護あさなの醸し出す異常な佇まいが日活ではなく、東映ポルノ女優の池玲子系の暴力の周辺に群がる自らもDQN的存在感と色気で素晴らしい。
護あさなは深夜番組でどっかの坂を全速疾走して胸しか見てなかった記憶がある。グラビアアイドル界で埋もれていたが眼差しが強くて女優に向いている。
惜しいのはコメディ要素が足らないこと。
「冷たい」脚本の高橋ヨシキ+園子温連合の悪魔主義者らに比べるとまだ冷徹になりきれていない弱さが垣間見れる。
余りに激しい暴力の後に来る、爽快感、美しさ、潔さ、可笑しさ・・・が見えた瞬間に暴力の本質に迫れるのだけどまだ表層で甘い。
しかし、青空のないグレー調の地方都市の風景描写がインサートされるがこれが美しい。この監督の編集リズムと才能を見た。初期北野武作品でも感じた。
これからが期待できる才能が現れた。
80点