批評サムライ  ~映画・ドラマ・小説・エンタメ ★斬り捨て御免!~

責任が何でも曖昧なこの国で娯楽くらいは白黒ハッキリ!大作も小品もアダルトも興業収入も関係ない。超映画批評にない「上映途中の居眠り」が特技。シネマハスラー宇多丸氏、たまむすび町山智浩氏、シネマストリップ高橋ヨシキ氏を見習って公開初日最速レビューを心掛け評価は点数制。地方在住フォトグラファーがど田舎のシネコンでネタバレあり&あらすじ&見たまま感想ブログ

映画「彼女の人生は間違いじゃない」R15(瀧内公美、光石研、高良健吾、柄本時生、篠原篤、蓮佛美沙子 監督:廣木隆一)今こそこういう日本映画が本当に必要なんだと思う。

ふと今日は映画の日だと気が付き、名画座を調べると九州では本日公開の不思議なタイトルの映画が丁度いい時間で始まる。

 

しかし、気に食わない。 

彼女の人生は間違いじゃない・・・主語+動詞+目的語

 

先入観を一切抱かせるな!

言いたいことは映画本編で言え、と。

どう感じるか、客の心にタイトルとはいえ入ってくるなと。

 

そんな事を思いながら、しかし中身の情報は全くなく平日に夕方約15人でスクリーンと対峙する。

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あらすじ)

東日本大震災から5年後の福島県いわき市。みゆき(瀧内公美)は、父の修(光石研)と仮設住宅に二人で暮らし、市役所に勤めてる。週末になると彼女は「東京の英会話教室に通っている」と嘘をつき、デリヘルバイトのために高速バスに乗って渋谷に向かう・・

 

近年まれに見る日本映画の収穫だった。

 

被災地の声と声にならない苛立ち

それを支える役者というリアリズム演技の多様性

高速バスを巧みに使ったモードチェンジ

 

被災者もそうで無い人も

みんな生きていかないといけない。

額に汗してる人生スケッチが、翻って自分はどうなんだろう?

と、ここまで迫ってくる。

 

主人公は声高に主張はしない。

セリフで言ってしまうとそれだけの共感で終わってしまう。

映像で見せつける。

  

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主人公役の瀧内公美は全く知らない。

どんな人なのか、過去作も多分見たことが無い。

しかしスクリーンで素晴らしい存在感。

 

あの日無理やり母と家を奪われた、被災地で地方公務員として仮説に住む20代女性の叫びが聞こえる。

ヌードがこんなに美しい女性を久しぶりに見た。

 

若手女優が脱ぐと「一皮剥けた」などと

つまらない評価法がいつもある。

 

R15で映倫はほんとにいいのか?という程のアダルトの色彩が強いが

この性=生が描かれると深い相克が見えてくる。

 

彼女なりにこれで唯一心のバランスを獲る術なのだろう、と。

  

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 そして父役は学校が同じだった光石研

最近の映画で父と言えば半分は光石が演じている感がある。

あの日以来、流され、半分死んでる世捨て人の小さな再生を見せてくれる。

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柄本時生の口を開けたままの情けない表情はなかなか見れるものではない。

自身が被災者である地方公務員の矜持がありつつ、仕事へのいたたまれなさ、自分の不甲斐無さ、いろんなマイナス感情の塊りのキャラクターを深刻にならずに、飄々と演じ切る。

他に並ぶ者がいない、彼の独壇場だな。

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 都会から来たカメラマンの蓮佛美沙子

重いシーンの中で唯一のマドンナで海で解放感を醸し出す。

彼女をスクリーンで初めて見るが、力が全く入ってない。

 

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サスペンスも、ホラーもない

恋もなければ、死もない

物語はあるようでない。

 

3・11の大きな死をみんな知っている前提で、残された者が

その場所で(被災地でも、東京でも、どこでも)考え、悩み、苦しみ

その時なりの答えを模索する。

 

観客はその模索を同時体験するだけ。

福島第一原発が陰の主役だ。

 

(税金投入は別にして)直接の被害なく電力を使う側として

この問題をどうするのか?突きつけられる。

 

タイトルの話に戻るとやはり蛇足だ。

作者の思いは本編で伝えればいい。

 

余計なことをするべきで無い。

その分のマイナスで

 

95点

 

今年見た(7月末時点)邦画、ドラマのベスト1

彼女の人生は間違いじゃない (河出文庫)

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