映画「オーバーフェンス」山下敦弘監督、オダギリジョー、蒼井優、松田翔太、北村有起哉、満島真之介、鈴木常吉、優香
いろいろあって20日以上も映画を見れないとストレスが溜まるよね。
朝、布団の上でマインドフルネス(後日記載予定)をiPhoneアプリでやって
一回クリアにし「居眠りしないぞ」宣言をしていつもの田舎シネコンに
夕方乗り込んだ。
同じ系列でも、東京のアート系映画がこの九州のど田舎シネコンに何故かやってくる。
故に、客は私を含む2名。上等だ。
あらすじ)
これまで好きなように生きて来た白岩(オダギリジョー)は妻にも見放され、東京から生まれ故郷の函館に舞い戻る。彼は実家に顔を見せることもなく、職業訓練校に通学しながら失業保険で生活していた。ただ漫然と毎日を過ごしてしていた白岩は、仲間の代島(松田翔太)の誘いで入ったキャバクラで変わり者のホステス聡(蒼井優)と出会い……
まず演技のアンサンブルが見事だった。
オダギリジョーはいつも自転車に乗る。その不安定感がいい。若い頃のギラギラが抜けてトラウマを簡単に見せないおじさんの哀しい感じが上手いな。
蒼井優は小さなTVで見たくないスクリーンでこそ素晴らしい。
松田翔太は俳優以外考えられない程うまい。北村有起哉の普通人の皮をかぶったやさぐれ感。切れ切れの満島真之介。初めて知った鈴木常吉のユーモア。誰なのか最初はわからなかったがこんなに落ち着いた演技者になっていた優香。
随所に至福の時があった。
港町と坂道は住人には不便でも(私も以前長崎市に住んでいたのでわかる)映像にするとなんか懐かしくて美しい。
ここに妻子と別れ大工見習い無職のおじさんの恋愛模様と訳あり仲間の生き方が描かれる。
鳥ダンスをする精神を壊しているホステス蒼井優が天使のように舞う。
精神的ないい顔をしているなと思っていたが、ここで花開いた感がある。
鳥は思うようにならない現状からの脱出のメタファーかな。
おじさんは最後にソフトボール大会でホームラン(オーバーフェンス)を打ちフェンスの向こうに消えていく。自分の力で、現状を超えるんだと。
仲間と蒼井優がそのボールを追う顔のアップが
「このままでは終わらないぜ」
「途中までの人生ゲームはいろいろあったけど、まだ負けてないんだ」と語る。
こんなあざやかなラストシーンを見たかった。
なかなかないよ。
アホな監督だったら主人公に余計なことを言わせたり
思わせぶりな表情を入れたりする。
吉永小百合とか大女優と呼ばれる人のラストは
涙か叫びか嗚咽か・・松竹、東映は特に多い。
何にもわかっていない。
「余計なことをするんじゃない」
何度日本映画に裏切られたことか。
ここでは見事な省略でオーバーフェンスしたボールが
ストレートに観客の心に届くようになっている。
そしてこの「あざやかさ」のみが、観客を我に返す。
「俺もオーバーフェンスできるかな?」
「そもそもバターボックスに俺はいないな」
「打つだけは打ってみよう」
観客の数だけ反応はいろいろだろう。
山下監督は映画わかってるね。
途中でアメリカ映画「カッコーの巣の上に」を思い出していた。
精神病院から脱出するチーフの正しさに「行け」「逃げろ」
私はスクリーンに叫んでいた。
あの感覚が40年ぶりに蘇った。
地方都市の職業訓練校に集まった
訳あり中年の青春映画として出色の出来だ。
ブリジットジョーンズがくっついた離れた、とか
宗教象徴学者がヨーロッパを走り廻る、とか
どうでもいい。
ハロウィンでも町にも飲み屋にも行かない
そもそも友達いないので、誘うことも誘われもしない
金はない、借金はある
人間関係が下手、いつもイライラする
ストレス抱えて明日が見えない
市井の人が懸命に生きる、暮らす、愛する・・・
普通の生活の中で、何かのパンドラの箱が開く瞬間
そういう日本映画が見たいのだ。
そういう映画だった。
100点
明日が映画に日だから何か見てきます。