映画「蜘蛛の巣を払う女」クレア・フォイ主演 北欧ミステリー「ミレニアム」の第2弾はご都合主義の極みで女トム・クルーズ大活躍でゴールを間違えた「ドラゴン・タトゥーの女」シリーズ唯一の失敗作。
今年最初の3連休の最後に、新年最初の映画館開きとなった。
公開前になるとやたら主演者がバラエティに出まくる邦画は見たくない。
「バナナ」がどうしたとか、10代のラブコメ、アニメが多くて困った。
唯一「蜘蛛の巣を払う女」しかなかった。
近所の巨大スーパーのシネコン13時、20人くらいで観賞スタート
(ネタバレあり、注意)
前作の「ドラゴン・タトゥーの女」(2011)は好きだった。
デビッド・フィンチャーのセンス溢れたハッカー表現、北欧の風景(都市も地方も)、タイトル・・・21世紀の現代映画と納得。
その数年前に小説「ミレニアム-1-」が楽しめた。
北欧ミステリーが好きなのは中学の時にはまった「刑事マルティン・ベック」が好きだったから。ホームズ、ポアロなど犯行や犯人誰?など本格物には興味がなく、怪人20面相も飽きて、社会派に目覚めた先が70年代スェーデンの都市生活を活写したこのシリーズだった。
「バルコニーの男」が特に傑作だった。松本清張の陰湿なムラ社会とは違う、福祉先進国の自立した夫婦関係、職場の人間関係が目からウロコだった。
「笑う警官」「ロゼアンナ」・・・角川文庫の色つきカバー表紙がクールだった。
それ以来北欧ミステリーは小説も、ドラマも、映画も、インテリアも、家具も、好きになった。
次にスェーデンのTVドラマ版も良かった。
美しくなく無愛想で頭の回転が速く傷つけられるがタフで不死身。そして誰といてもいつも孤独。主演ノウミ・ラパスの真骨頂。
だからトリプルでこのシリーズは評価してきた訳だが、さて本題。
あらすじ)
特殊な映像記憶能力を持つ天才ハッカーで、パンク風の特異な風貌、そして背中にドラゴンのタトゥーを入れた強烈な個性の持ち主リスベットは、天涯孤独で、壮絶な過去を持つ。その過去が、あるキーパーソンによって明らかにされていく……。
自らの裁きによって悪を正そうとするリスベットに対し、「皆を助けるのに、なぜあの時……私だけを助けてくれなかったの?」と意味深な言葉を彼女に投げかける謎の女カミラ。
彼女もまた、凄惨な過去と秘密を背負っていた。二人の関係を紐解きながら、リスベットはジャーナリストのミカエルと再びタッグを組み、新たなる犯罪組織の陰謀に迫る。
リスベット役をどうしてもノウミ・ラパス、ルーニー・マーラ(2011) と比べてしまう。
ミハエル役が昨年感心した「ボルグ/マッケンロー」のボルグ役スベリル・グドナソンだと後で気づいた。
双子の妹を演じるシルヴィア・フークスは絵に書いた様な北欧美女で雪がよく似合う。
脇の役者はハリウッド映画に馴染みの薄いユーロ系で達者だ。
孤立を演じてはいるものの主演クレア・フォイにはなんか違うな。
国家機密をリスペクトが盗み、悪党になった妹一味との対決なんだけど、注射打たれても、即薬飲んで起き上がり、車運転して、煙突登ってと、トム・クルーズ「ミッションなんとか」以上のスーパーヒロインぶりに戸惑ってしまう。
こういう映画を見に来たのではないのに・・・・
アメリカからデータを盗まれたNSA(アメリカ国家安全保障局)職員が一人で、リスペクト周辺を捜査するが彼女に助けられる空港の脱出劇はさらに醜い。天才ハッカーが建物のコンピュータシステムに侵入しドアの開閉を自由にするのはよくある手だけど、秒単位にここまで完璧だと映画のゴールを別のところに連れていく。
この映画はアクション活劇なのか?
終盤、リスぺクトが絶体絶命でまたもNSAがスナイパーとして大活躍。
なんのことはない女トム・クルーズと黒人トム・クルーズで組織を壊滅してしまった。
スェーデンの公安のNO2の美人役人も、悪党を手を組んだあげくに殺される。
観客の意外性を高めるための何でもあり感が酷い。NO2が悪党の城になんか行くものか。
私の中では3回も満足させてもらったので
構成として蜘蛛の巣の様に絡まった糸が収斂されてクライマックスを迎え
それは、リスベットへの共感=カタルシスで第3弾へ続く・・・・
当然そうなるものと期待していたが。
そもそも皆が狙う「データ」が国家にどんなに必要なのかの提示がないので物語の背骨(縦軸)になってない。
横軸としてリスペクトの過去(運命が別れた姉妹の相克)が十分に描かれない。
補助軸として1作から唯一の男友達ミハエルとの恋愛もない。
演出のセンスは感じられず、登場人物の誰にも共感はできず、1作からの繋がりは無視され、北欧デザインも堪能できず・・・
2時間のご都合主義サスペンスを見せられた先には、落胆しかない。
背中に「金返せ」のタトゥーでも入れたろか。
「ドラゴン・タトゥーの女」シリーズ唯一で初めての失敗作。
0点
第3回 批評サムライ 映画大賞2018発表
謹賀新年
このブログもなんだかんだ-足かけ4年になります。
昨年はここ最近一番映画見てない年でした。
見たことも忘れつつある50代、情けない。
対象)
2018年に見た映画(邦画・洋画)、TVドラマ、アダルト etc
新作も旧作も、初見も再見でも。劇場公開、YouTube、Amazonプライム etc
レンタルDVDでも。デバイスはPC、タブレット、iPhone etc
鑑賞したもの全てが対象です。
【映画賞】
グランプリ作品賞 「カメラを止めるな!」
物語の面白さはただ単にどんでん返しとかでなく、2回目以降も楽しめること。
その為に、監督、役者、スタッフの「必死」さがこっちに伝わってくる熱気が見えること。
何よりも、東京から観客の熱気が、九州の地方都市までじわじわ広がって来た(しかもネタバレ配慮した)邦画応援の機運を感じた稀有なイベントになったことが嬉しかった。
主演男優賞 ベニチオ・デル・トロ(ボーダーライン:ソルジャーズ・デイ)
立ち姿だけで存在感がもうサムライ!
全盛期の三船敏郎感に、ラテン中南米人(プエルトリコ)独特のセクシーさとプラスされてアクションしてもしてなくてもオーラしかない。
主演女優賞 エイミー・アダムス(ノクターナル・アニマルズ)
見る前から綺麗なのはわかっているが、この映画では妖しさ満開。
都会で生きる今の女、回想されるかつての女、砂漠で彷徨う劇中劇の女の3役を堪能できる。もう溜息しかない。
何ともと不快な男を愉しく演じて脇役としてブレークの予感。原田芳雄的な殺気を久しぶり感じた。
独壇場で主演を喰うオーラ。
突如女王あらわれて中島ワールドが動き出した。
竹原芳子(カメラを止めるな!)
出てくるだけで爆笑。場をほんわかに支配する。
元お笑い芸人の凄みを見せた。
特殊演技賞 トニ・コレット(へレディタリー/継承)
次から次に来る出す変顔オンパレードは一見の価値がある。
このエネルギーは凄い。
撮影賞 「ボーダーライン:ソルジャーズ・デイ」
砂漠にマシンガンは合う。 命のやり取りが見える。
音楽賞 「ボーダーライン:ソルジャーズ・デイ」
18年2月他界したヨハン・ヨハンソンに代わり師弟筋のヒドゥル・グドナドッティルが麻薬、砂漠、殺しを見事にイメージさせる。
音響賞 「ボルグ/マッケンロー 氷の男と炎の男」
随所に北欧ぽい重厚感が画面を引き締める。
JKビジネスに現れた松岡茉優は天使だった。
トップ7
・「来る」
・「万引き家族」
・「ボヘミアン・ラプソディ」
・「ノクターナル・アニマルズ」
・「スリー・ビルボード」
ワースト6
・「へレディタリー/継承」
・「億男」
・「ザ・プレデター」
・「モリーズ・ゲーム」
・「クソ野郎と美しき世界」
・「孤狼の血」
特に印象的なのは「クソ野郎と美しき世界」
業界向け狙いと短すぎる限定上映の可笑しな世界が邦画界でまかり通る。
平成でこういうのは終わって欲しい。
映画「来る」説明抜き、インサート過剰の中島哲也風だけど、脇の演技合戦(黒木華、小松菜奈、青木崇高)が素晴らしい。大友「童夢」風のアパートサイキック戦争より東映女囚サソリの梶芽衣子ライクな松たか子の怪演が楽しめる。
「告白」「渇き。」と中島節がクセになってるので4年ぶりの新作は楽しみにしていた。
突如現れるイマージュを躊躇なく挿入するリスクを取ってでも世界を作ろうとする姿勢が、3K(北野、是枝、黒沢)にはない、必要ない小細工と見る向きもあるだろうが、一貫してやってるところが作風となってPOPで好きだな。
いつものど田舎シネコンの平日16時。
観客は5人ほど。至福が始まる。
リズムが心地よい。中島はこの映画でも画面展開を厭わない。それも不思議な画像を挟んでくる。意味がわからないものばかりで実に強心臓だ。振り切ったな。潔よい。
それと俳優がみんな生き生きしてて頼もしい。
第1幕の妻夫木は軽い、フワフワした、調子のいい都会人は真骨頂だ。
第2幕は黒木華の変化が凄味を増してくる。
こんなに旨い女優とは知らなかった。
キャバレー嬢の霊媒師は最初誰かわからない。
知的な小松がこんな品の無い小娘をさらっと出来るとはね。
前半最大の見所は青木崇高だ。
ライターを引き合せながら、友情を武器に家族を取り込んでいく手腕。主演・岡田以上に存在感を醸し出す。
後半は松たか子の独壇場だ。
「来る」のが何物か? 何故か? 目的は? いつ?
何にも説明してくれない中で、キレのある短いセルフ廻しで状況を唯一観客に解らせ、事態の収集を図る。
そのスタイルが、1970年代、東映女囚さそりシリーズで体制と組織に背を向けた梶芽衣子ルックでスクリーンに現われる面白さは劇画だ。
中島vs松で21世紀の反体制ハードボイルドドラマをぜひ撮って欲しいな。
彼女は何者かと対峙し、その為に仲間を呼んで警察をも動かす、地下では有名なサイキッカーらしい。ここで観客は唯一ホッとする。彼女なら退治してくれるだろう信頼が結ばれている。
日常にはいない、出逢わないであろう存在感がスクリーンを圧倒する。
「告白」でも感じたが女性の持つ冷静、正確、無慈悲、周到など母性の反対側を演じて見せてくれた松が、次のページに進んだ感がある。
インサート映像が若干多すぎてCM調が過ぎる気はする。それと多くの謎が回収されないまま残るモヤモヤは仕方ない。ドラマの論理より世界観が優先する中島エンタメなのだから。
これでいいのだ。
邦画で役者のアンサンブルがフルに堪能出来たんだから平成30年最後の映画鑑賞は満足だ。
80点
映画「ヘレディタリー/継承」トニ・コレットの絶叫顔、森の中の一軒家、首ハネ、怪奇現象、得体の知れない町の人々、悪魔崇拝・・・オカルト全部入りジェットコースターの抜群の後味の悪さ。監督アリ・アスターの生真面目な演出は20世紀最高のホラー映画「エクソシスト」のウィリアム・フリードキンに通じる。
最近は九州のど田舎でも結構シネコンが増えてきて、最も見たかった映画が最も近くのスーパー系で始まっていたりするから侮れない。
auマンデーを利用して夕方5時スタートで観客は私1人(10分後には熟女2人が参加して3人で鑑賞となった)ホラーは知らない人でも沢山いるとそれほど怖くない心理が働くから+2人はいないも同じ。ホラー鑑賞環境が整った。
あらすじ)
グラハム家の祖母・エレンが亡くなった。娘のアニーは夫・スティーブン、高校生の息子・ピーター、そして人付き合いが苦手な娘・チャーリーと共に家族を亡くした哀しみを乗り越えようとする。自分たちがエレンから忌まわしい“何か”を受け継いでいたことに気づかぬまま・・・。 やがて奇妙な出来事がグラハム家に頻発。不思議な光が部屋を走る、誰かの話し声がする、暗闇に誰かの気配がする・・・。祖母に溺愛されていたチャーリーは、彼女が遺した“何か”を感じているのか、不気味な表情で虚空を見つめ、次第に異常な行動を取り始める。まるで狂ったかのように・・・。 そして最悪な出来事が起こり、一家は修復不能なまでに崩壊。そして想像を絶する恐怖が一家を襲う。 “受け継いだら死ぬ” 祖母が家族に遺したものは一体何なのか?
葬儀でアニーが不思議な挨拶をする。
「来てるのは知らない人ばかり」「母は秘密主義」・・・
とっさに悪魔崇拝の秘密倶楽部みたいな物語の背景が広がるが、娘チャーリーの異常さにすぐに忘れてしまった。不気味な低音BGMがいつも鳴ってるせいか・・
この映画はこのBGMと音響がキーだ。(「エクソシスト」もそうだった)
葬儀終わってから租母の実家に住む4人家族が全員がとにかく暗い。
笑顔とか笑い、ジョークの一つもありゃしない。
父以外は瞳に生気が最初からない。
いつもピリピリした作家の母。
トニ・コレットは全く知らないがトラウマ抱えた中年女性像を秀逸に演じてる。
不幸顔しか見せない訳あり娘。
麻薬パーティー好きな息子。
序盤でオーメン的な事故があってから、不幸は目に見える形で急降下していく様を真正面から描くことにつき合わされる。
ここから母の様々な絶叫顔が強烈だ。まさに壊れていく感じ。
母が祖母の秘密を解明していくにつれてさらに不幸が増していく。
「エクソシスト」はまだわかり易かった。
この映画は先の展開が見えない。
このホラージェットコースターがきつい。
この映画がDVD販売、レンタル、アマゾンなどで動画配信されると10代でも見れる訳だからカルト映画化になるのは目に見えている。
キリスト教の国でヘレディタリー殺人が発生する予感もして、とても危険な匂いがする。
本来アンダーグラウンド作品を年齢制限ありとはいえ、世界配給してしまう映画会社は十分病んでる。
「エクソシスト」のリンダ・ブレアーさえ3人の死と引き換えに生還したのに。
希望のきの字もありゃしない。
共感なんて皆無、ただ絶望だけの映画。
10点(音響を評価して)
我らがクリント・イーストウッド(88)の新作「THE MULE」(運び屋)が公開される幸せと、トランプ統治のアメリカへの異議申し立てへの期待。
娯楽映画の最高齢記録を更新し続ける天才映画俳優兼監督のクリント・イーストウッドの新作トレーラーがYouTubeにアップされている。
主演はおろか、出演もしないと依然インタビューで語っていたと記憶したが10年ぶりにスクリーンに復活した。
70年代「ダーティーハリー」で世界を席巻したアクション俳優。
ホットドッグ食べながらの悪人退治と44マグナム、ジャケットのカッコ良さ。
もう虜にならずにいられない。
彼は演出にも才能を発揮し「恐怖のメロディ」1971年で初監督兼主演以降、ワーナーブラザース配給で続々と80年~2010年代まで傑作ドラマを産み出し続け、その集大成が「グラン・トリノ」だった。
自分を犠牲にして異国から来た移民の幸せと引き換える。
かつて共和党を支持し2年間は市長として地域社会の抱える問題点を理解したのか、イーストウッド的博愛主義への変化球にファンのみならず世界が唸った。
予告編では、偉丈夫なイーストウッド(45年ファンなのでイメージが確立しているのもある)が、ただただおろおろする痩せた老人になりきっていて、死が近い古老の人で、それだけで落涙の一歩手前になってしまう。
一方で「グラン・トリノ」と違う、何か異質な傑作の予感しかない。
見てはいけないものを見てしまったら奈落へ落ちるしか他にはない。そんな感じが伝わるのだ。
この10年、アメリカ最大の出来事は何たって大統領選にトランプ勝利。
メキシコ国境にも、アメリカ国民にも、世界経済にも壁と分断と混乱をもたらす。
イーストウッドはトランプ統治のアメリカの今に我慢できず、これまでのキャリアから考えられない「ドラッグの運び屋」の役を通して、敢えて出演したのではないか?
残念だけど年齢からすると引退まであと数本だろう。
娯楽作の体で私映画を全世界に配給できる立場と能力が共にあるのは世界の映画界で唯一無二でイーストウッドだけだろう。
「最後に言っておきたいことがある・・・」
そんなとてつもない映画である気がしてならない。
来年の日本公開が待ち遠しい。
映画「ボーダーライン:ソルジャーズ・デイ」ベニチオ・デル・トロ、ジョシュ・ブローリンで描くメキシコ国境麻薬戦争の情け容赦ない人間模様と無常感の傑作。デニトロ祭!
パート2を待ったことがない最近のアメリカ映画で
本当に待ってました。
いつものド田舎シネコンのいつもの席(後方、右斜め)から
コーヒーとポテトでわずか数人の客と公開初日を向かい合う喜びと言ったらない。
とにかく前作「ボーダーライン」(2015)がまず素晴らしかった。
殺ったら殺り返す感。
この映画で監督ドゥニ・ビルヌーブを知りセンスに脱帽
(次の映画「メッセージ」も100点)
今回は監督を変えて、エミリー・ブラントから少女に変えて?
前作で音楽を担当したヨハン・ヨハンソン死後(2018年2月)どう変わったか?
トランプ登場後のメキシコ国境がどう扱われるのか?
興味は尽きない。
あやすじ)
アメリカ国内の商業施設で市民15人の命が奪われる自爆テロ事件が発生。 犯人一味がメキシコ経由で不法入国したと睨んだ政府は、 国境地帯で密入国ビジネスを仕切る麻薬カルテルを混乱に陥れる任務を、 CIA工作員のマット・グレイヴァー(ジョシュ・ブローリン)に命じる。 それを受けてマットは、 カルテルへの復讐に燃える旧知の暗殺者アレハンドロ(ベニチオ・デル・トロ)に協力を要請。 麻薬王の娘イサベル(イザベラ・モナー)を誘拐し、 カルテル同士の戦争を誘発しようと企てる。 しかしその極秘作戦は、 敵の奇襲やアメリカ政府の無慈悲な方針変更によって想定外の事態を招いてしまう。 メキシコの地で孤立を余儀なくされたアレハンドロは、 兵士としての任務と復讐心、そして人質として保護する少女の命の狭間で、 過酷なジレンマに直面していく・・・
まず主演の存在感が群を抜いてる。
違法行為を躊躇わないジョシュ・ブローリンと、マフィアとしか思えないベニチオ・デル・トロ。
そして物語の構成の妙。マフィア同志を争いさせて壊滅させる黒澤明の「用心棒」スタイル。(と見せかけて意外な展開がある)
スマホのような感覚で武器を扱うアクション(特に音響)のリアルさ。
テキサス砂漠の叙情感とメキシコの猥雑感のマッチング。
特に、前作になかった作戦オペレーションルームを中心とした航空動画の浮遊感。
などなど、血を大量に見るのと同様に、そこに至る双方の情報を存分に見せられる。
麻薬戦争の現場は情報戦なのだとわかる。
全編を支配する感情は日本人からすると最も遠い無常感・・・
情けの「な」の字もありゃしない。
一部の国(カナダとか)と地域(オレゴンとか)で制限付きながらコカイン解放が進むが、これを見る限り、国境地帯が砂漠である限り、密入国者と警察の果てしない戦いは続く。
ドラマとしても現状認識としても見た方がいい。
そしてパート3でこの音をまた聞きたい。
Sicario by Jóhann Jóhannsson- The Beast
100点
映画「運命は踊る」監督サミュエル・マオズマジックが国境警備の緊張と弛緩を照射する。
チケットを頂いたので平日の15時、福岡唯一の名画座に出向くと、シニア世代がポツんといっぱい。
イスラエル映画を見たことがない。
ドラマの一部で描かれたのがスピルバーグの「ミュンヘン」でオリンピック殺人事件のアラブテロリストを各地で殺していく。周りをアラブ諸国に囲まれたいつも戦時下である状況だけは理解している。
そのシビアな国の映画界から若き鬼才の2作目が登場した。(前作は見ていない)
あらすじ)
夫妻のもとに、軍の役人が、息子ヨナタンの戦死を知らせるためにやって来る。ショックのあまり気を失う妻。夫は平静を装うも、役人の対応にいらだつ。そんな中、戦死の報が誤りだったと分かる。安堵する妻とは対照的に、夫は怒りをぶちまけ、息子を呼び戻すよう要求する。
ラクダが通る検問所。ヨナタンは仲間の兵士たちと戦場でありながらどこか間延びした時間を過ごしている。ある日、若者たちが乗った車がやって来る。いつもの簡単な取り調べのはずが・・・ 遠く離れた場所で、3人の運命は交錯しすれ違う。
両親の住むマンションの部屋と、息子の国境警備所が交互に描かれる。
基本それ以外にはない潔さ。
突然死んだと告げられた夫の哀しみ、間違いだった軍への怒り。
部屋から出ないので濃密な息苦しさが伝わってくる。
一転して死んだとされた息子の働く国境警備所の単調さの対比。
この砂漠地帯のカラートーンがフィルムライクで時間の流れが緩やかだ。
この兵士達の日常は実に面白い。
暗闇をやってくるアラビア人たちの不安げな表情
テロリスト審査の照合する間の緊張
目くばせと合図の弛緩
砂漠の中で生と死との向き合いを見ていく。
これが陸続きの国境で繰り返される現実だと理解できる。
善意からの悲劇
予想外の夫婦
なんともドラマチックな中近東か。
隣のスクリーンではマイケル・ムーアの「華氏911」をやっている。
トランプの一声で国境に緊張が走る。
福岡の名画座で実感させられる。
80点