映画「来る」説明抜き、インサート過剰の中島哲也風だけど、脇の演技合戦(黒木華、小松菜奈、青木崇高)が素晴らしい。大友「童夢」風のアパートサイキック戦争より東映女囚サソリの梶芽衣子ライクな松たか子の怪演が楽しめる。
「告白」「渇き。」と中島節がクセになってるので4年ぶりの新作は楽しみにしていた。
突如現れるイマージュを躊躇なく挿入するリスクを取ってでも世界を作ろうとする姿勢が、3K(北野、是枝、黒沢)にはない、必要ない小細工と見る向きもあるだろうが、一貫してやってるところが作風となってPOPで好きだな。
いつものど田舎シネコンの平日16時。
観客は5人ほど。至福が始まる。
リズムが心地よい。中島はこの映画でも画面展開を厭わない。それも不思議な画像を挟んでくる。意味がわからないものばかりで実に強心臓だ。振り切ったな。潔よい。
それと俳優がみんな生き生きしてて頼もしい。
第1幕の妻夫木は軽い、フワフワした、調子のいい都会人は真骨頂だ。
第2幕は黒木華の変化が凄味を増してくる。
こんなに旨い女優とは知らなかった。
キャバレー嬢の霊媒師は最初誰かわからない。
知的な小松がこんな品の無い小娘をさらっと出来るとはね。
前半最大の見所は青木崇高だ。
ライターを引き合せながら、友情を武器に家族を取り込んでいく手腕。主演・岡田以上に存在感を醸し出す。
後半は松たか子の独壇場だ。
「来る」のが何物か? 何故か? 目的は? いつ?
何にも説明してくれない中で、キレのある短いセルフ廻しで状況を唯一観客に解らせ、事態の収集を図る。
そのスタイルが、1970年代、東映女囚さそりシリーズで体制と組織に背を向けた梶芽衣子ルックでスクリーンに現われる面白さは劇画だ。
中島vs松で21世紀の反体制ハードボイルドドラマをぜひ撮って欲しいな。
彼女は何者かと対峙し、その為に仲間を呼んで警察をも動かす、地下では有名なサイキッカーらしい。ここで観客は唯一ホッとする。彼女なら退治してくれるだろう信頼が結ばれている。
日常にはいない、出逢わないであろう存在感がスクリーンを圧倒する。
「告白」でも感じたが女性の持つ冷静、正確、無慈悲、周到など母性の反対側を演じて見せてくれた松が、次のページに進んだ感がある。
インサート映像が若干多すぎてCM調が過ぎる気はする。それと多くの謎が回収されないまま残るモヤモヤは仕方ない。ドラマの論理より世界観が優先する中島エンタメなのだから。
これでいいのだ。
邦画で役者のアンサンブルがフルに堪能出来たんだから平成30年最後の映画鑑賞は満足だ。
80点