批評サムライ  ~映画・ドラマ・小説・エンタメ ★斬り捨て御免!~

責任が何でも曖昧なこの国で娯楽くらいは白黒ハッキリ!大作も小品もアダルトも興業収入も関係ない。超映画批評にない「上映途中の居眠り」が特技。シネマハスラー宇多丸氏、たまむすび町山智浩氏、シネマストリップ高橋ヨシキ氏を見習って公開初日最速レビューを心掛け評価は点数制。地方在住フォトグラファーがど田舎のシネコンでネタバレあり&あらすじ&見たまま感想ブログ

映画「クソ野郎と美しき世界」園子温、山内ケンジ、児玉裕一らの才気ないプロモーション的映像と、監督太田光+カメラ瀧本幹也+草彅剛のロードムービーが余りにアンバランスな、業界向けマスターベーションに付き合わされるクソ映画

すっかり月曜日はauマンディ(終日1100円)ということで、東宝シネマズ系列のスケジュールを見ていることが多い。

 

2週間限定公開?という不思議なプロモーションに釣られてしまい、元SMAPのファンでないが、園子温と爆笑問題の太田光演出と、役者として傑出している草彅剛を見たくて近所のイオンに向かった。

平日の18時とはいえ、巨大スーパーイオンで観客はたったの5人・・・

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ポスターからしてタランティーノ風で、3人のアウトローが銀行でも襲うのか?

しかし3監督なのでオムニバスということなので、「新しい地図」のCMは見たことがあるがイメージだけで、この映画こそ彼らのそれぞれの方向性が示唆されているに決まっている、日本のエンタメに波風起こそうとする気概あり、と勝手に解釈して席に座った。

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いきなり女が走る。追うヤクザ。お祭りパレード中に起きる逃走劇

稲垣吾郎は女に惚れられるピアニスト、彼のナレーションで回想シーンが割り込む。

オーバーな演技と原色衣装だけが目立つ。

物語はあってないような風は60年代フランスヌーベルバーグ風なのだが

「気狂いピエロ」ゴダールのような即興はなく

「ピアニストを撃て」トリフォーのような予測不能さなく

単に、奇をてらった、悪ふざけにつき合わされた役者が本当に気の毒。

またしても才能の枯渇を証明したのか?園子温

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第2話「慎吾ちゃんと歌喰いの巻」山内ケンジ監督

歌手で絵描きのアーティス・香取慎吾本人と歌喰い少女とのよくわからない関係が全く魅力的に描いてくれない。

途中から色鮮やかな「うんこ」が主役になってしまって、しかもそれを食べる・・

その感性にはついていけない、いきたくない世界。

(香取慎吾の現在の心模様を描いているならば別だけれど)

久しぶりに、時間泥棒、と叫びたかった。

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第3話「光へ、航る」太田光監督

一変して爆笑問題のボケ担当は色彩が前の2作品と違うのがすぐわかる。

外のシーンから昼間のブルーが写真のブルーに近い。(カメラマンは「海街Diary」の瀧本幹也だった)

この色の中で、草彅剛のオーラが光る。

都会で暮らす周囲と折り合いのつかない兄ちゃんを演らせると最高だね。

荒涼とした感じ、風に吹かれている感の不思議な魅力あるんだな。

警官役の新井浩文にも言えるけど。

尾野真千子もやり過ぎないしうまいな。

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役柄の心情が見えてくる。凄い役者になったな。

唯一、背景をボケ過ぎのマクロレンズ使った様な処理はどうなんだろう?

観客に想いは届いているんだから蛇足だと思うな。

 太田光はテレビ出演を抑えてでも長編で草彅と組んで欲しいな。
北野武のようなことはなかなか出来やしない。

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最終章「新しい詩」児玉裕一監督

一転して3人集まっての香取慎吾ミュージカル仕立ても、3本バラバラの最後に急に足りないものを全部付け足して、いったい何?

長い長いエンドクレジットに、CM、PVで活躍する、クリエイティブなんとかみたいな横文字の人を並べて、業界の一流どころが集まったお仕事でした、と内輪受けなんだろう。

観客からはこの2時間、ただの一言も、笑いも、驚きも、涙も、何一つ聞こえない。

”情けない”の一言に尽きる。

 

第3話以外、ここ数年見たことがないよう出来損ないはお見事としかいいようがない。

稲垣吾郎、草彅剛は既に日本映画を背負う素晴らしい役者(香取は違うと思う)なんだからこんな企画で彼らの「新しい地図」を汚してはいけない。

 

この映画は企画ありきのクソ映画であることは間違いない。

 

10点

映画「15時17分、パリ行き」おそらく世界最高齢の映画監督クリント・イーストウッドの大変化球に戸惑うも「境地3部作」と思えば是非に及ばず

何たって我らのイーストウッド

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60年代生まれの映画少年ならバイクに長い脚のせて都会を疾走する「アリゾナ無宿」が忘れられるはずがない。

俳優として好きだけど、監督としてが余りに素晴らしい。

「マディソン郡の橋 1995」の大人の恋愛模様の切なさ

「ミスティック・リバー 2003」の心理サスペンスの探り合い

「アメリカンスナイパー 2014」の戦闘シーンの圧倒的なリアル、などなど・・・

間違いなく映像表現の最先端を世界最高齢監督が続々更新していく様を映画ファンは目にしてきた。

しかも1990年以降じゃほぼ毎年、作品をリリースしていく
自身が率いる制作会社マルパソプロを持っているとしてもだ。

信じられない早撮りの奇跡。

その最新作がひっそり公開されていく。

見に行かずにはいかない。

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あらすじ)

2015年8月21日に、554人の乗客を乗せたアムステルダム発、パリ行きの高速鉄道タリス車内で、突如、イスラム過激派の武装したモロッコ国籍の男が乗車してきた。その男は自動小銃を持っていて、無差別に撃ち殺そうとしていた。

旅行中で偶然乗っていたアメリカ軍兵のスペンサー・ストーン氏とオレゴン州兵アレク・スカラトス氏、そして2人の友人であるアメリカ人大学生アンソニー・サドラー氏の3人がテロリストに立ち向かっていく・・・

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冒頭でテロリストが現れるが、すぐに3人の少年期に入る。

出会い、学校と折り合いのつかなさ、母とシングル家庭のつらさが丁寧過ぎるほど描かれる。

時々列車内がインサートされるが、3人のこれまでのある意味パッとしない様が描かれる。ドラマの山もなければ谷もない。

やがて成人し、ヨーロッパで再会、パリ行き列車に乗る。

ここから一気に動き出すのだが・・・

これまでのイーストウッド映画にない”奇妙な”味わいをどうしていいかわからない。

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これまでのフィルモグラフィーの中で

「許されざる者 1992」、「グラントリノ 2008」の雰囲気に近い。

大アクション、娯楽作の合間に死生観をテーマの渋い変化球を投げてくる。

私は「境地シリーズ」と呼んでいる。

(「ヒア アフター 2010」は余りに明確な主張が強すぎて違う気がする)

本物の芸術家だけが到達するある領域

例えば、織田信長が本能寺の乱で自死の間際に言ったとされる

「是非に及ばず」に近いかもしれない。

善悪でない、受け入れるしかない世界観

(イーストウッドはTM瞑想を長く実践している)

「パリ行き」はシリーズ3作目に位置するドラマともいえる。

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起承転結の王道とはかけ離れた構成であることは

神様イーストウッドは百も承知だろう。

 

ラスト15分の反撃で「人は変われる」を証明するために長々と幼少期を描く

カットできるのにしない勇気

何より役者でない、本物のヒーローにドラマを再現させた信念には驚く

 

これまで40年近く愉しませてもらった映画人が何をどう撮ろうとついていくしかない。それが私なりのリスペクトだ。

そういう映画人は、アメリカにイーストウッド

ヨーロッパにラース・フォン・トリアーとミハエル・ハネケ

日本に北野武、黒沢清など10人もいない。

今はわからないが70超えたらわかるのかも知れない。

それでいい。

 

この映画は評価できないし、する気もない。

ドラマであってドラマでない。

ある「境地」を体感する映画なのだ。

だから「是非に及ばず」

 

次回作はビヨンセと組んだ「スター誕生」のリメイクらしい。

私はバーブラ・ストライサンドが主演の第3作のこの曲が大好きだ。

 


A star is born - Evergreen

 

クリント・イーストウッドは

1930年生まれで5月に、88歳になる。

映画「ペンタゴン・ペーパーズ 最高機密文書」スピルバーグ監督 トム・ハンクス主演 公開初日に為政者とのペンの戦争と新聞記者の矜持を見たかったが、ストリープの、ストリープによる、ストリープのための映画を見せられて困った

スピルバーグの新作を公開初日に見るこれはワクワクする。

他の監督よりは見ている気になったが最期に見た作品は「インディジョーンズ クリスタル・スカルの王国」で2008なので10年ぶりだった。トム・ハンクス主演では、「プライベート・ライアン」以来なので20年ぶりか。

金曜日の夕暮れ、いつもの映画館、いつもの席で、いつもの混み具合で、いつものように幕が開く。

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あらすじ)

1971年、ベトナム戦争が泥沼化し、アメリカ国内には反戦の気運が高まっていた。国防総省はベトナム戦争について客観的に調査・分析する文書を作成していたが、戦争の長期化により、それは7000枚に及ぶ膨大な量に膨れあがっていた。
ある日、その文書が流出し、ニューヨーク・タイムズが内容の一部をスクープした。
ライバル紙のニューヨーク・タイムズに先を越され、ワシントン・ポストのトップでアメリカ主要新聞社史上初の女性発行人キャサリン・グラハム(メリル・ストリープ)と編集主幹ベン・ブラッドリー(トム・ハンクス)は、残りの文書を独自に入手し、全貌を公表しようと奔走する。真実を伝えたいという気持ちが彼らを駆り立てていた。
しかし、ニクソン大統領があらゆる手段で記事を差し止めようとするのは明らかだった。政府を敵に回してまで、本当に記事にするのか…報道の自由、信念を懸けた“決断”の時は近づいていた。

 

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ベトナム戦争の現場から始まる。

戦場を描かせたら撮影のカミンスキー色は最高にリアルだね。

冒頭の掴みがスピルバーグのお約束で相変わらずのキレの良さ。

ここから機密文章暴露をニューヨークタイムスに先を越されるまでがプロローグ

トムハンクス登場から文章入手までが前半、入手から公表までがヤマ場で

エピローグが裁判の勝利と起承転結の見本だ。

 

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新聞記者映画と言えば76年のアラン・J・パクラの「大統領の陰謀」で

記者が関係者に取材して廻る。足で稼ぐ姿が印象的だったが今回は調査報道。

動きがない。記者目線でミステリーを明らかにしていく過程の面白さがない。

報道によって明らかになった真実の提示が余りに少ないし丁寧さに欠く。

代わりに女社長の人間関係の動きがあるがこれが面白くないのだ。 

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自殺した主人の代わりに主婦から社長となった苦労を

娘を引っ張り出して名女優に語らせる。

おいおい、「吉永小百合映画」かよ。

お涙頂戴になった途端に興ざめだよ。

政府側のドタバタを見せるとか、記者側との軋轢とか

報道による為政者へのダメージと意義が観客に今ひとつ伝わらない。

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随所に報道の自由を思わせる気の利いたセリフはあるが、ハリウッドお得の法廷闘争はメリハリが出来るか、頭の体操に無理やり参加させられドラマを矮小化してしまう。

ストリープの、ストリープによる、ストリープのための映画になってしまい、われらのトム・ハンクスはただの引き立て役に終始。

ホワイトハウスとのハラハラする火花を背景に

記者の矜持を見れると勝手に思った私がバカだった・・・

 

70点

映画「去年の冬、きみと別れ」岩田剛典、山本美月、斎藤工、浅見れいな、土村芳、北村一輝 焦る脚本と力が入った稚拙な演技が目立ち、どんでん返しの魅力が半減した残念作

カメラマンが例え探偵でも、殺人者であってもドラマになればこれは見たくなる。

どんなカメラで、何を撮っているのか?

自分も含めて変人多いしね。

それに原作は話題の作家・中村文則のミステリーだし

「BG」で落ち着いた感じの斎藤工がどういう芝居を見せるか?

やっといつもの、ど田舎シネコンの定位置にひとり収まり
最終回の少ない観客と邦画を楽しめる。

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あらすじ)

婚約者との結婚を控え、幸せの只中にいる新進気鋭のライター・耶雲恭介。

彼が次の仕事のターゲットとしたのは、連続焼死事件の容疑で逮捕された天才写真家・木原坂雄大でした。

彼は何のために二人の女性を焼き殺したのか?

それは本当に彼の仕業だったのか?

事件の真相を追って木原坂や彼の姉、そして謎の人形師などに取材を試みるうち、いつの間にか彼らの術中にはまって抜け出せなくなっていく耶雲。

果たして耶雲は、婚約者との元の幸せな日々に戻ることができるのか・・・

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岩田剛典という人をこれまで見たことも聞いたこともない。

固定観念かも知れないがライターという自由業のもつ独特のやさくれ感がない。

迷いのない、隙のない、誰に対してもぐいぐい迫る一本気は、共感できない。

(この一貫さがどんでん返しの伏線でもあったことがわかるのだが)

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天才カメラマン役の斎藤工。

今回はその輝きが足りなかった。

これは脚本ミスだな。

知らない男に家の鍵を渡す異様さとか

何故に天才なのか、さっぱりわからない。

このキャラ設定が不十分だと、発言の重みと深みが感じられない。

エピソードを重ねて丁寧に映像で見せないといけない。

先を急ぎ過ぎ、この辺りは黒沢清を勉強して欲しい。

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対して彼女役の山本美月は幸薄感がいいな。

(福岡出身なので応援してます)
後半のキーウーマンなんだけど美女と悲劇は相性がいいね。

かわいそうなのが北村一輝

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物語の最大のキーマンなのだが

そこまではライターのボスとして敏腕編集長然としてキャラ作りに成功していたが、感情の揺れを吐露するシーンの下手さはどうしたんだろう。途端に学芸会になった。

これまで見たドラマのカッコ良さはなんだったのか?

別テークをやらせるか、カットして構成変えるかしないとね。

これは監督の演出力の無さだな。

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収穫は浅見れいな

対談した宝塚男役のようなキリッと感とミステリアスが似合う。

30代の訳ありショートカット美女は恐ろしい。

 

 

 

どんでん返しは確かに面白く見れたけど登場人物の誰にも共感がないし

どいつもこいつも悪人だらけで後味はかなり悪い。

 

おまけに最後に流れるイメージソング

3分の音楽で2時間の苦労を一瞬で台無しにするこの手法

殺意さえ覚えた。

 

70点

 

 

 

映画「シェイプ・オブ・ウォーター」ギレルモ・デル・トロ監督 サリー・ホーキンス アカデミー作品賞を獲った夜に見に行ったのだが・・・

アカデミー発表日の夜で、作品賞獲ったし、auマンデーは2人まで1100円なので久しぶりに彼女を連れて見に行った。

巨大スーパーイオンの内の東宝シネマズ。今回は人が多いだろうなと思ったら、閉店ガラガラ。

最後尾の真ん中で、見晴しはいいが、前席の下がり角度が低くて、カップルシートもない。肘掛がデカくて、あがらないので、変なこともできやしない。

いつものド田舎ユナイテッドシネマの素晴らしさがわかった。

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デルトロ監督作品を見たことがない。

メキシコ人で、太ったオタク以外の情報はない。芦田愛菜が出た「パシフィック・リム」は知ってるがガンダム風は嫌いで見ないことにしている。

だけど、予告編で半漁人とのラブロマンスと、秘密兵器開発と50年代冷戦下サスペンスときたら興味はある・・・

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あらすじ)

1962年、アメリカとソ連が対立していた冷戦時代。 イライザは一人で安アパートに暮らす中年女性。 隣人であり親友のジャイルズも独り身、パイ屋の男に想いを寄せながら日がな一日画家として絵を描いています。 イライザは幼い時に声帯に傷を負い、今もその傷痕は首筋にハッキリと残っていました。 彼女が深夜から朝にかけて働いている職場は、アメリカ政府の機密機関「航空宇宙研究センター」。 そこにはゼルダという仲良しの黒人の同僚がいます。彼女は声の出せないイライザの分まで喋るかのように、いつも夫の話ばかりをしています。 ある日、職場にアマゾンから極秘の生き物が運ばれてきました。警備として元軍人の大柄で横柄で差別的な男、ストリックランドもやって来ます。 堅く閉ざされた扉の向こうにいる生き物が気になるイライザは・・・

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主演のサリー・ホーキンスは全く知らない。

と思っていたら、幼児虐待容疑濃厚でもう新作は作れないであろう天才ウディ・アレンの「ブルージャスミン」の妹役ではないか。世渡りが出来そうにないブルーカラーの蓮っ葉女性を見事に演じていた。

今回、声の出せない、恋人がいない、一人で生きている薄幸の面影が抜群にいい。

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バスタブ内の秘め事はR15指定になってもこのシーンはキャラ設定に必然だ。

半漁人は出てくる前で、この映画は「ディズニーじゃないよ」宣言で、もしかしてエロ映画か?と違った期待も出てくる。

肉感的というよりも処女性を感じて、それが41歳とはね。

こういう展開はおじさん世代にはうれしい。

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職場で最高機密の半漁人と出会うのだけど、興味から好きになる尺が早すぎる。もっとエピソードをつないだ中で劇的な何かがあった方が感情移入できる。

旧ソビエトスパイに協力する科学者や、痛めつける政府側キャラ設定がステレオタイプで、わかり易いのだけれど、冷戦下の厳しい現場で生きるヒシヒシ感が足りないな。

それに国家機密をこんな簡単に、ウソみたいに脱出できるかな?

「ミッション・インポッシブル」のスパイのプロチームならまだしもね・・

この変のリアリティの無さは目をつぶろう。

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脱出させてからのアパート内の撮影は見事だな。

猫シーンはショックで倒れそうになった。

あれはいかんよ、カットだカット!

 

北野映画がブルーなら、この映画はグリーンだね。狂気の色。

人と半漁人の愛もある種の狂気だし、冷戦下の核戦争時代の狂気でもあるし。

夜の雨のシーンはさらに懐かし色で綺麗だ。 

社会の片隅で、障害のある隠れるように一人で生きてきた女性が

職場で運命の出会い、恋をして、愛するが故に、別れないといけない。

彼氏はただ半漁人・・・

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生まれ故郷に、自由な世界へ戻したい主人公が切ない。

こっちは「ロッキー」みたいに彼女を全力で応援したいんだけど最終コーナーの起伏がないので本当に残念。ラストが2人の世界になるだけにね。惜しいな。ドラマは脚本だな。

ヌードが多いのに作品賞を獲ったのは、ある種のメッセージなんだろうな。

壁を作ろうとするトランプ狂気の中、マイノリティ側がエンタメ作品としてささやかな爆弾を投下して壁を壊す抵抗なのだろう。

「大脱走」「カッコーの巣の上で」「ソーシャンクの空へ」

自由への渇望は映画のラストシーンとして最高に萌える。

これでいいのだ。

 

85点

映画「リバーズ・エッジ」行定勲監督 二階堂ふみ、吉沢亮、森川葵、上杉柊平、SUMIRE、土居志央梨 岡崎京子のいつものテーマ=愛故に傷つける、自傷するかの2者択一アオハル映画

今年最初の邦画観賞は、都会近くの川沿いの青春群像を選んだ。

岡崎京子原作となれば、傷口に塩のみならず、酢・砂糖・たぎった油とかなんでもありの自傷ドラマだろうし、映画館で観るのはけっこう勇気がいるけどね。

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主演意外は誰一人知らない。だけど、皆んな良かったな。

いじめ、監禁、放火、売春、セックス、自殺など事件と事故がある高校のあるクラスで同時進行する。

大人になればやりすごす術がわかるのだろうが、10代には通じない。

 そのもどかしさがリアルに描かれる。

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最近の二階堂の無敵感がカッコいいな。

それでいて毎回、置きに行った演技をしない役者魂が見える。

おっぱいだすのはお約束見たくなってきたし青姦だし。

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最大の収穫はSUMIREかな

ネコ殺しの危なさと愛に飢えた絶望感が同居したキレる一歩手前芸で完成してる。

ミステリアスは女優の最大の武器だな。

 

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土居志央梨の屈折演技も良かった。

学校に一人必ずいるホステス風の、誰とでも寝る肉感さが伝わってくる。

ひきこもりオタクの屈折姉も最高だった。

 

アオハル映画も腕のある監督が撮ると見ごとに耀くけど

映画館を出る時の壮快感はゼロなので困ったものだ。

 

80点

映画「スリー・ビルボード」マーティン・マクドナー監督 フランシス・マクドーマンド、サム・ロックウェルの陰鬱演技合戦、着地点の予想不能感、地方都市住民のスケッチが愉しめる快作。祝アカデミー主演女優、助演男優賞!

アカデミー賞が今日発表になって2人同時受賞で(他人事なので賞に関心はない)この映画、先月見たのにブログ書き時間がなかったが思いだした。

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あらすじ)

アメリカ、ミズーリ州のエビング。

ある日、道路沿いにメッセージが現れる 「レイプされて死亡」 「犯人逮捕はまだ?」 「なぜ?ウィロビー署長」

7ヶ月前に娘を殺された母・ミルドレッドが進展しない捜査に腹を立て広告だった。 ニュース番組のインタビューを受け、波紋はどんどんに広がってゆく。

警察署長、部下ディクソン、牧師、歯医者、元旦那、広告会社社長など巻き込んで思わぬ方向へ・・・

 

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冒頭のさびれた看板シーンから、もうワクワクする。

「スター・ウォーズ」とか「なんとかマン」とかSFXハリウッドインチキ映画では決して味わえない。本物のドラマの香りね。

アメリカの小さな街に起こるであろうとんでもない騒動のイメージが広がる。

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徐々にフランシス・マクドーマンドの奥に秘めた怒り、悲しみ、激しさが見えるんだな。「ファーゴ」も見事だった。決して所謂、美人女優ではないが、(見た目)普通の人(心の中は闇)を演じてNO1だな。素晴らしいな。

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警察署長は、何考えてるかわからないエキセントリック俳優のウディ・ハレルソンが今作では泣かせる。

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その部下、サム・ロックウェルの異常者ぶりにホレボレする。若きジャック・ニコルソンからセクシーさを奪った様なな。

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娘を殺した犯人探しを縦軸に、母と地域社会との反目を横軸に、2人の警察官との奇妙な協力関係の3つどもえが、どう着地するのかまったくわからない。

 

殺人事件映画の傑作「ミシシッピ・バーニング」の様な人絹無視の捜査もなく、「ゾディアック」の様な知的興奮もなく・・・どのジャンルにも属さない人間ドラマだ。

 

気取った美男美女がでてこない渋い40、50代の名優たちの演技のアンサンブルがほんとに堪能できる。

 

こういう映画なら予算も大きくないので日本でも作れると思うんだが、まだ吉永小百合を昭和史の中で泣く母を演じさせて、観客を泣かせる「昭和30年代方式」が今でも残る悪しき邦画界はどうしたものか・・・

 

いいドラマは脚本と俳優だな~とつくずく思うな。

 

95点