批評サムライ  ~映画・ドラマ・小説・エンタメ ★斬り捨て御免!~

責任が何でも曖昧なこの国で娯楽くらいは白黒ハッキリ!大作も小品もアダルトも興業収入も関係ない。超映画批評にない「上映途中の居眠り」が特技。シネマハスラー・宇多丸氏やたまむすび・町山智浩氏のブログを見習って公開初日最速レビューを心掛け、評価は点数制。みうらじゅんとカンパニー松尾をリスペクトするフォトグラファーがお届けします。

「春を背負って」 木村大作監督 松山ケンイチ、蒼井優、豊川悦司 原作)笹本稜平

悪い人が一人もいない別世界の映画

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都会で暮らす金融屋が、父の死で山小屋の主人になる。面白そうな物語だ。


松山は近年いちばんいい感じ。

蒼井優が不自然な程に笑顔で、昭和の香り漂う。

豊川がいちばんおいしい役で、人生のアップダウンを感じさせ、説教くさいセリフを関西弁で丸く言う。

小林薫はさすがいつもの渋さ。全体で3分も出てないだろうが山で生きる厳しさを体現する。

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時々3000Mの絶景がインサートされ、これでもか!といろんな表情を見せる。
SFX無しのオールロケ=全て実写のリアルティはあるが、この見かけの起伏(山岳映画なのだが)と、ドラマに起伏のないアンバランスな感じと、楽しめない違和感は何だろう。

大きく次の4点
・人間が描けてない
・対立がない
(親子の対立、都会と山、持つものと持たざる者、サービス業と安全管理etc )
・セリフで心象を説明する
・個性とリズムがない

 

その結果、ぶつかりあわないからドラマが起きない。
起きないドラマをセリフで処理した。
人間描写が薄っぺらで、観客は感情移入できない。

最大の敗因は「脚本」につきる。

1、都会で暮らす松山の心象と生活が描かれない
2.多くの登山者に慕われた父とのエピソードがない
3、父の死と山小屋の主人になる変心が描かれない
4、山小屋の主人で生きていく責任と覚悟が描かれない
(大学生の遭難のエピソードの描き方が中途半端)
5、松山と蒼井との恋愛が描かれない

下界の冗長なシーンが長いのでカットしてでも見せるべき。

ラストがこの映画を象徴する。
松山と蒼井の手つなぎダンスを見せられても・・・

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2人の恋愛シーンは皆無なのに、この無理やり感。
ため息しか出ない。

山田洋次の「幸福の黄色いハンカチ」では
出会った3人(高倉、武田、桃井)の過去は丁寧に描いている。
観客はその積み重ねから、ラストの感動につながる。 
 
誰かを幸せにする(高倉と倍賞千恵子)ことで
自分たちが幸せになる(武田と桃井)ことを理解した
若者の成長に多くに人が感動した。

 

原作「春を背負って」の主張は
都会の生活に疲れた若者が
突然の父の死をきっかけに山小屋を引き続継ぎ
周囲の仲間に支援に助けられて
疎遠だった父の仕事と山小屋の主人の責任に気ずき
登山客を幸せにすることが、自分(松山)の仕事であり
同じ感性を持つ女性と出会い一緒に山で生きていく。

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生きがいを見つけ成長した若者像に
観客は、自分はどうだろう?と考え

そうはなれなかった自分を振り返ったり
家族や、知人を重ねたり
山での生活を想像し
それぞれが独自の世界観を作る
そして、生きてるといろんな事あるけれど
それでも人生は生きるに値するなと。
普通に映画化するだけで名作になったのに・・・


この映画に脚本家は3人いる、木村大作瀧本智行 宮村敏正
プロが2人いながら何故だろう。
フジが制作委員会だから、テレビ放映の尺に合わせカットしたのか?
監督もする木村に、プロが押し込まれたか?
何故、羽交い絞めにしてでもプロがリライトしなかったか?

いずれにしても、この映画の出来は脚本のままだとすれば
この時点で失敗は見えたはず。
プロデューサーはこの脚本を読んだのだろうか?

この本で、優秀なスタッフ、キャストを3000Mに連れていっても

名作は生まれない。

セリフと絶景で、木村大作の主張をしてしまった。

セリフは、観客のイマジネーションを奪う。
いい映画は、みんなサイレントだということを何にもわかってない。

映画人としてその感覚、感性の欠如は致命的だ。
脚本家・演出家の山田洋次とカメラマン・木村の腕の違い。
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いい俳優陣と、いい原作、いい背景
「山の日」をひかえて、全国的に山への眼差しがある中で

プロの映画人が、素人が作るような多くの禁じ手を
惜しみなく使ってしまった、2014年上半期で一番残念な映画。

30点

 作家・笹本稜平はいま山岳小説でトップにいる。

 

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