批評サムライ  ~映画・ドラマ・小説・エンタメ ★斬り捨て御免!~

責任が何でも曖昧なこの国で娯楽くらいは白黒ハッキリ!大作も小品もアダルトも興業収入も関係ない。超映画批評にない「上映途中の居眠り」が特技。シネマハスラー宇多丸氏、たまむすび町山智浩氏、シネマストリップ高橋ヨシキ氏を見習って公開初日最速レビューを心掛け評価は点数制。地方在住フォトグラファーがど田舎のシネコンでネタバレあり&あらすじ&見たまま感想ブログ

映画「空母いぶき」佐藤浩市発言よりも情緒的な脚本の方が問題。建前国家にエンタメ界からの一石は評価大。

やっと見れた今年最初で、令和最初の日本映画は

佐藤浩市発言で公開前から話題の「空母いぶき」

しかし、百田直樹は作品は素晴らしい(「夢を売る男」は平成に読んだ本で最高だった)のに、見てもいない映画について発言しなくていいのに、自分を小っちゃく見せて情けない。

どうでもいい話だけど

20数年前、帰郷する間の半年だけ、東京でドラマのエキストラをやっていて、フジのドラマで佐藤浩市渋谷ビデオスタジオで共演した。バーのシーンで女性と2人連れの客の設定で近くで見ていて、世の中こんなカッコいい男がいるのか?と率直に思った。立ち姿が色気あり過ぎる。

さて公開3日目、月曜日の昼下がり、ご近所スーパーシネコンはシニア世代が多く20%の稼働率でスタート

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あらすじ)

20XX年。日本の最南端沖で起こった国籍不明の軍事勢力による突然の発砲。日本の領土の一部が占領され、海保隊員が拘束された。

未曾有の緊張が走る中、政府は初の航空機搭載型護衛艦「いぶき」を中心とする護衛隊群を現場に向かわせる。

日本は、かつて経験したことのない1日を迎えることになる・・・

日本にはないことになっている「空母」(実際は「いずも」、「かが」が改装中)

をスクリーンで見せる姿勢に1本!

島を獲りにきた外国軍隊を見せる勇気に1本!

日本映画界が憲法施行から70数年目にやっとたどり着いたリアルに目を向けた瞬間に立ち会えた。

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日本国憲法 前文にある

・・・平和を愛する諸国民の公正と信義に信頼して、われらの安全と生存を保持しようと決意した。 とある。

実際は

ロシア・・北方領土を不法占拠(日ソ中立条約を一方的に破棄)

韓国・・・竹島を不法占拠

中国・・・尖閣諸島を実効支配しようとする

北朝鮮・・日本人を日本国内から拉致し帰還させない

ならず者周辺国に囲まれて「平和を愛する諸国民」とか、ファンタジー憲法との乖離を、学校でも一切習わない、国会でも議論しない。

米軍基地と核兵器に守られた「お花畑国」にあって、エンタメとはいえスクリーンで一石を投じた姿勢を評価したい。

原作者「かわぐちかいじ」は、自衛隊シリーズで一貫した「本音と建前」批判の姿勢に最大の敬意を表したい。

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冒頭、不特定子供たちの集団が・・・あー嫌な予感がする。

違うな・・・・と。

空母が主役のこの映画は「シン・ゴジラ」系の第1作目であると勝手に思っていた。

ゴジラ」はメタファー

主役は日本の統治機構と、唯一の暴力装置自衛隊であり

閣議、関係閣僚会議、記者会見など為政者・官僚の発言と行動だった。

庵野監督が膨大なセリフとテロップを駆使して

市井の人々の表情を敢えて一切描かない日本映画革命を成功させた。

 

今回は、相手の思惑がわからない(=コミュニケーションがとれない)「海外某国」を「ゴジラ」に見立て、指揮系統の最上位官邸や自衛隊が、「シン・ゴジラ」では踏み込まなかった「憲法」や「専守防衛」「武力」など、為政者が時の流れに合わせて解釈と言う名の屁理屈を重ね、憲法の矛盾、本音と建前の偽善を描くものと思い込んでいた。

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だが違った。

「日本は戦争をしない」主義者の佐藤総理の苦悩は、会議中のセリフによってのみ表現される。その前段の本音と建前の偽善システムが描かれないので、カッコのいい言葉だけが宙を舞う。

(第1次の安倍総理に病気を揶揄した、とかそんな感じは皆無)

 

 空母側は敵と火花散っているが、官邸は意見の違いがあっても火花が散らない。

苦しそうな佐藤総理がただうろうろしているだけ。

 

それに比べて西島艦長の存在感は見事だった。

どういうシチュエーションでも口角を上げたまま、まるでナレーションの様なセリフ廻しで現場を指揮し支配する。

海自の中でも心技体傑出したリーダー像を見せてくれる。

こんなに上手い役者だったとはね。

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但し、大阪弁艦長のコントセリフは楽しいがリアリティを欠いたし、コンビニ店長と店員の下りはドラマのリズムを大きく崩してくれた。

唯一の市井の人の暮らしを見せて「平和が大切」としたかったのだろうが双方のテンションが違い過ぎて相乗効果が逆に出てる。

いつもの映画制作委員会形式の為か、複数クライアントの合意形成の為、情緒に寄ってしまったのだろうか?

 

ここは「シン・ゴジラ」風に振り切っていかないといけない。

庶民は描かないんだ、と肝をすえないと。

 

70年以上の偽善の積み重ねが生んだ、何でも先送り主義の末に

それを見越した諸外国勢力との衝突の最前線と、為政者を切り取るんだ、と。

何故そこを描かないんだ!

 

せっかくの「かわぐちかいじ」の長年の問題提起と役者の演技を脚本は生かし切れなかった。原作者からすると無念だろうな。

 

振り切れない恨みで80点

それでも評価はしたい。

1歩は進んだ。