映画「スノーデン」 監督:オリバー・ストーン 主演:ジョセフ・ゴードン=レビット、シャイリーン・ウッドリー 公開初日最速レビュー
トランプ合衆国になってしまったのでこれはぜひ見ておきたかった。
アメリカはまちがいなく世界最先端の科学技術国で世界初に事かかない。
電気も、電話も、飛行機も、月にも人を送ったり・・・最大の貢献の一つがインターネット開発と陰陽だと思う。
エドワード・スノーデンはやったことは、そのインターネット下の世界規模の監視・盗撮・盗聴の仕組みを告発した。
一方で開発しながら、一方で違法運用をする、為政者の体質を内部からあぶりだした。
21世紀最大の告発者だろうね。
彼のおかげで、世界の先進国のリーダーはみんな盗聴され、市民も好き勝手に覗かれ、IT大手企業はみんな政府とグルと教えてくれた。
トランプに映画界で立ち向かうのは誰が考えても、マイケル・ムーアとオリバー・ストーンだろうね。という訳で公開初日に見に行った。
あらすじ)
2013年6月、イギリスのガーディアン誌が報じたスクープにより、アメリカ政府が秘密裏に構築した国際的監視プログラムの存在が発覚する。
ガーディアン誌にその情報を提供したのは、アメリカ国家安全保障局NSAの職員である29歳の青年エドワード・スノーデンだった。
国を愛する平凡な若者だったスノーデンが、なぜ輝かしいキャリアと幸せな人生を捨ててまで、世界最強の情報機関に反旗を翻すまでに至ったのか。
テロリストのみならず全世界の個人情報が監視されている事実に危機感を募らせていく過程を、パートナーとしてスノーデンを支え続けたリンゼイ・ミルズとの関係も交えながら描き出す。
スノーデンが軍人の時から、彼の生きざまを細かに描く。
主役のジョセフ・ゴードン=レビットが意志薄弱で地に足がついてない感じだ。それに対して恋人は堂々の左派的で次第に大きな影響を受けていく。
カメラワークがなんか不思議だ。
恋する2人の出会いのシーンはめったに見れない前ボケ・後ボケの浅い被写界深度(パンフォーカスの反対)で映画学科の学生か?
随所にカメラはパンフォーカスとボケを繰り返す。
盗聴・盗撮が裏テーマなので何か意図があるんだろうがよくわからん。
イーストウッドならこんな小細工は決してしない。
蛇足だね。
彼の家族や友達は描かれない。
職場(CIA、NSAなど)と恋人しかでてこない。
2000年くらいから数年の違法な諜報機関の動きを告発する割にはサスペンスがない。ドラマチックな山場も特にない。
淡々と主人公と恋人の苦悩を見せる。
ケネディ暗殺シミュレーション映画「JFK」で軍の高官X(ドナルド・サザーランド)が語る畳みかける強引なオリバー妄想節の面白さを期待したが・・・それはない。
強引さとアクの強い主人公とで化学変化を起こし、プラスに働くがここでは完全封印した。
本人はロシアで囚われの身だしね。生きねばならない。
狂気のトランプ政権が始まったばかりだし映画ではオリバーの主張を抑制したのか?
なんかお行儀がいい感じが否めない。
もしかすると、この映画が国際プロジェクトの第一弾かも知れない。
壁を作ろうとするトランプと、その壁を壊して外に出たスノーデン。
映画で再び脚光を浴びる。
4年以内に反トランプの機運からノーベル平和賞を彼に与えれば、国際社会は命を完全保障(トランプなら暗殺の大統領令出しそうだ)する。
次に反トランプ・民主党政権でロシアから帰国させ、収監しないで大統領恩赦で無罪にする。
そのことでトランプ狂気政権との違いを世界にアピール、アメリカ民主主義の復活などと勝利宣言でもするつもりだろう。
クリントン支持の多いハリウッドリベラル派なら容易に考えそうだ。
腐るほどシナリオライターはいるしね。
民主主義の効かないプーチン帝国ロシアに守られて生きる、自由の国のアメリカ人スノーデン。彼の利益は数十億人に及ぶが、告発者は西側には来れない。
生きる矛盾。
アメリカ政府からの、世界中の市民のプライバシー保護レベルを上げた、最大の功労者の苦悩は見ておく必要がある。
70点
もしも村上春樹の新刊「騎士団長殺し~きしだんちょうごろし 1部顕(あらわ)れるイデア編・2部遷(うつ)ろうメタファー編」の物語やあらすじの主人公があなただったら? 2017年2月24日発売
出版不況の中、この人の新刊は2冊で100万部スタートだよ。
この人気凄いね。
前作「色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年」(2013年4月12日)は予約だけで50万部。当日は午前0時販売開始に行列ニュースになんと暇な人だろうと思っていたが・・・読んでみて驚いた。
あらすじ)
多崎つくる、鉄道の駅をつくるのが仕事。名古屋での高校時代、四人の男女の親友と完璧な調和を成す関係を結んでいたが、大学時代のある日突然、四人から絶縁を申し渡された。 何の理由も告げられずに。
死の淵を一時さ迷い、漂うように生きてきたつくるは、新しい年上の恋人・沙羅に促され、あの時なにが起きたのか探り始めるのだった・・・
面白いじゃないか。
これまで村上の描く青年のかっこつけた青春は、背中がかゆく好きになれなかった。きどったセリフも慣れてくると効果は逆効果。全編に斜め45度で生きてるようなニヒリズムに腹が立てた。
春樹は(百田)直樹を見習って欲しい。かゆいところは微塵も見せず、伏線回収のプロ作家魂を。読者を異次元へ確実に連れて行く。
しかしこの作品で、いつも垂れ込める春樹雲を乗り越え、青空を見たような爽快感があった。春樹の青年期が終わったか、と安堵した。
嬉しすぎて2年前に六甲山登山に行ったときに、神戸のゆかりの地を巡る計画をしたが、いい歳したおじさんがハルキストでもあるまいに・・・と断念したことを思い出した。
元町とか三ノ宮をブラタモリいてたら古い喫茶店が多くてね。トランプ帝国のシアトル系外資サービスが嫌いなので、珈琲好きにはたまらない町だね。老後には神戸に住みたいなと本気に考える。
もしかしてその前作「1Q84」(2010)から青空が見えていたのかも?
勝手に期待して全3巻読んで見たものの、霧深い青年期の森を彷徨わされた。
さて「騎士団長殺し」
第1部 顕(あらわ)れるイデア編
第2部 遷(うつ)ろうメタファー編
イデア? メタファー?
おいおい、また春樹雲たち込めるのか?
図書館予約は2年待ちだろう。
確かめるには買うしかない。
次回)
個人的に2017出版界最大のニュースは、70年代から私が一番読み込んだある作家のシリーズ再開だった・・・
大ヒット!「夫のちんぽが入らない」 こだま著
どうやら2017年、単行本では最初の大ヒットのようだ。
このタイトルだし、リアル書店では買いにくいのは想像できる。
特に地方の本屋さんとか知り合いだったら、買っただけで変なウワサが流れそうだしね。
いくつかの書評では、とても誠実に「ちんぽ」と向き合っている妻の心の叫びが詳細に書かれていると評価が高い。
男も女も、結婚したら2つ向き合う。
経済的に、精神的に、社会的に共に生きるパートナーと。
そして生殖として、快楽としてそのパートナーの性器と。
文章は読者の官能を刺激する目的ではない。
「私小説」ではない。
「私生活」いや「私性渇」ドキュメンタリーかな。
ちんぽのサイズ問題で
夫は、妻は、その欲望をどこで代償できるのか?
生殖はどうなるのか?
夫婦はいったいどこへ向かうのか?
突き詰めれば、結婚とは? 夫婦とは何か?
実に面白い。
KINDLE版
映画「マッドマックス 怒りのデス・ロード ブラック&クロームエディション」4DX 監督ジョージ・ミラー シャーリーズ・セロン トム・ハーディー
今日初めてこんなバージョンあると知った。しかも4DX!
一昨年の最高傑作にして、映画史に残る大傑作と言わざるを得ない。
当時の批評は ↓ ↓ ↓
故に仕事ほっぽりだして今から見る。
福岡市内雪降ってるが、映画館は暖かい。
実社会は厳しいが、映画館だけはストレスがないしね。
狂いそうなこの世界の片隅で、せめて2時間くらいMADにして欲しい
感想は後ほど・・・
まず初4DXの感想。
キャナルシティ博多では料金2300円。
人生で1作品で支払ったたぶ最高額だ。
作品の完成度は2回目なので100%保障なので惜しくない。
まず4人掛けの椅子がいい感じだ。
前席とのスペースも適度にあるし見やすい。
10%の入りも悪くない。
開始5分前に、スタッフ女性がつかつかやってきて
「外部からの飲食の持ち込みと、荷物はお預かります」携帯、財布など入れたジャンパーとホットゆず茶を有無を言わさず持って行ってしまった。
(後で知ったが、入口横に専用ロッカーで荷物を預けるシステムになっていた)
そして、挨拶代わりに紹介ショートムービーで爆音鳴らし、椅子揺らして、風が耳元からやってきて、スチームがスクリーンに昇り、水滴が落ちてきた。
てっきり面倒なメガネするのかと思ってたので、たいしたことないなという感じ。
そして上映。
物語は2行で語れる。
砂漠の悪党から逃れ、生まれ故郷に帰りたい女戦士と悪党の子を産まされる女たちの逃走を助ける元警官マックス連合と悪党軍団の殺し合い。
全編モノクロ・・・どうかな? という一抹の不安は確かにあった。
でも開始数分で、あの「ジョージ・マッド・ミラー」の世界に没頭した。
何の問題もない。
写真でいう、白とび、黒つぶれなく、フルカラーにない白黒の豊かな諧調が見れる。
逆に気持ちいい。抜けがいい。
もっと言えばセクシーだ。
改めてシャーリーズ・セロンのこの映画の凄味を再確認した。
長い手足の美しさ、誘拐され戦士にさせられた哀しさ、強烈なリーダーシップ、性を超越した高貴なる存在の高みの存在感。大スクリーンで見るに値するスター女優だね。
4DXは疲れるけど楽しいな。
全編ほぼタンクローリーが砂漠を疾走する訳なので、同時に椅子が揺れる。2時間助手席に座っている感覚。シートがいいので悪酔いはしない。
アクションシーンでは、画面に合わせて背中から肘打ち受けてるようで、慣れててくるとマッサージのようで気持ちがいい。
という訳で、上映中居眠りが出来ない唯一の鑑賞方法でもある。
但し2000円オーバーなのでMAD作品しか見ない。
「SW」とか「ジェラシックなんとか」ごときでは行かない。
このシリーズ、とにかく悪役が魅力的だ。
大悪党イモータンジョーは誰が見ても、どこから見てもバケモノ級で嬉しくなる。
部下はどいつも見事な悪党顔だ。
このビジュアルで勝手にドラマは動き出す。
映画はどこ切り取ってもハイダイナミックレンジの静止画のようで、写真家がよく使う「ルック」が高い。
モノクロにしたことでそれが際立って見える。
ジョージ・ミラーの圧倒的なクリエイティブに再度脱帽する。
絶望の地からの脱出劇アクションで世界最先端の過激映像を、猛スピードで見せながら
多くの死の先に希望を見せる。
20年に1本でるかで、ないかの大傑作でありながら
ハリウッドでは決して作れないインディペンデントムービーの香がする。
映画の至福あふれる魂を鷲づかみされた2時間を再び味わった。
素晴らし過ぎる。
100点
2017年1月20日、アメリカで、本物のマッド
現代のイモータン・ジョーになりうるドナルド・トランプが大統領に就任し4年間の悪夢に世界は付きあう。
就任式当日、多くの死者がでるだろう。
マックスは現れるか・・・
映画「アイ・イン・ザ・スカイ」 監督ギャビン・フッド ヘレン・ミレン、アラン・リックマン
最近、テレビ見てるとドラマでもドキュメンタリーでもいろんなシーンで俯瞰シーンがどんどん増えている。(特にNHK)
動画も静止画もNHK放送ならクオリティは高い。高画質でパンフォーカスでピントがあって解像度も4KでもOKだろう。
元はと言えばドローンは軍事開発なので、民間転用してこの高機能ということは、軍用はさぞ凄いとは想像するが、見ることは軍人か政府高官以外はない。この映画はそこを見せてくれる。
あらすじ)
イギリス軍の諜報機関で働くキャサリン・パウエル大佐は国防相のベンソン中将と協力し、ナイロビ上空を飛ぶドローンを駆使してロンドンから英米合同軍事作戦を指揮している。
自爆テロ計画の存在を突き止めた彼らは、アメリカ国内の米軍基地にいるドローン・パイロットのスティーブに攻撃命令を下すが、殺傷圏内に幼い少女がいることが判明。
キャサリンは、少女を犠牲にしてでもテロリスト殺害を優先させようとするが・・・
アフリカのテロリストを、虫型ドローンと上空ミサイル搭載ドロ―ンでテロリストを狙う。現地、英国の作戦指揮、指揮命令部署、アメリカの実行部隊の画面が頻繁に切り替わる。テロの時代の戦争の運営をはじめて理解できる。
アフリカにいるテロリスト攻撃を、アメリカの空軍基地内でボタンを押す訳だから軍人は誰一人死なない。
地球の反対側にいるので民間人が倒れても救助はそもそも出来ない。
周囲の死亡確率を表面上50%を切ることで攻撃承認させようとする主人公
少女を犠牲にして攻撃許可を出したくない、責任を逃げたい大臣たち
現場をモニターで見ながら少女を発見し苦悩するオペレーター
ミサイル殺害を巡る法的なやり取りと、現場に少女が現れてどう助けるか、助けないのかのサスペンスが絡んで、倫理上の問題を提起する。
遠いアフリカのハイテク戦争に日本は無関係という訳には、人道が入り込めば参加せざるを得ない。映画が終わるまでは、暗闇の中「あなたならどうする?」と問われる。
主人公のヘレン・ミレンは貫禄勝ちなんだけど、キャラとの年齢差が高すぎる。
大佐だったら40代後半~50代だろうから、ここはニコール・キッドマンとか- サンドラ・ブロックだろう。女性軍人のみが持つセクシーさが緊張感の中に見えればさらにリアリティが増しただろうにね。
遺作となったアラン・リックマンは良かった。軍人である故の苦悩が見えた。
スッキリしないグレーなエンディングがテロの時代の映画の文法なんだろう。
観客参加型が今後増えそうな予感がする。
参加させられるとSNSでなんか言いたくなるしね。
ヨーロッパとアメリカとアフリカ3大陸では、国民の知らないところでハイテク駆使して世界中でテロリストを追いかけ、殺害許可を求めている軍人と政治家がいる現実をスクリーンで知ることには意味がある。
一方の日本。尖閣周辺では、自衛隊と政治家間でこのやりとりが行われていくことは容易に想像できる。憲法にその存在を明記もされず60年以上、政治家に裏切られ続けている自衛官という名の軍人が、唾棄すべき政治家とどう日々折り合いをつけているのだろう。
紅白の演出がどうとか、元SMAPの木村と草なぎのドラマ戦争とか
金ぴかのPPAPとか品の無いCMを繰り返し見せられる
異常で異様なエンタメ業界による平和日本演出でこそ見るべき映画だと思う。
80点
映画「こころに剣士を」 監督クラウス・ハロ(フィンランド、エストニア、ドイツ)
チケットをラジオ局からもらったので平日11時半に行く。
ヨーロッパ映画で、フェンシングで、時代はソビエト圧政下の50年代。馴染みのないリトアニアを舞台にスター俳優は皆無。これは少ないぞ・・・とおもいきやシニア層を中心に5割入りだ。嬉しいね。
私の好きな要素が満載だ。
ヨーロッパ映画で社会派、SFXゼロの実写のみ、統治国家(社会) vs 抵抗人
ドラマチックにならない筈がない。
あらすじ)
1950年のはじめ、エストニアのバルト海に面した小さな町ハープサル。カバンをひとつ提げたエンデル(マルト・アヴァンディ)が歩いている。元フェンシングの選手で、小学校の体育教師として、ハープサルにやってきた。
校長は、なぜこんな小さな町にと、不審に思うがエンデルを採用する。彼は第二次世界大戦中、ドイツ軍とともにソ連と戦っている。いまは、ソ連の秘密警察から追われる身の上のエンデルにとって、ハープサルははるかレニングラードから逃れて選んだ土地だった。
体制べったりの校長から、スポーツクラブを開くよう要請される。戦時の供出のため、体育館には、スキーの板さえない。エンデルは、体育館で、剣を振る。そこにマルタ(リーサ・コッペル)という少女がやってきて、エンデルに「教えてほしい」と言う。半ば無気力、子どものことをあまり好きでないエンデルだが、マルタの表情を見て、教えることにする。
当日、多くの子どもたちが体育館に集まり、エンデルは驚く。おそらく、フェンシングは初めてという子どもたちである。エンデルは、基本の姿勢から教え始める。しかし、実物の剣がない。エンデルは、葦を刈り、煮て、何本もの剣らしきものを作る。
同僚の女教師カドリ(ウルスラ・ラタセップ)の話によると、スターリン政権の指示で、多くの子どもたちの父親、祖父が連行されているらしい。「子どもたちは、何かに打ち込んでいる間だけは、辛いことを忘れる」とカドリ。
葦の剣での練習が始まる。エンデルは、うまく出来ないヤーン(ヨーナス・コッフ)を、つい叱ってしまう。「先生はぼくたちを嫌いなんだ」とヤーン。その言葉にエンデルは驚き、「必ずりっぱな剣士にしてやる」と約束する。
練習に励む子どもたちを見た校長は、嫉妬なのか、フェンシングの練習を認めないと言い出す。校長は、以前から、エンデルの過去を調査している。やがて、エンデルの素性がどういうものかを知ることになる・・・
主演のマルト・アヴァンディがいい。戦争中にドイツ軍と共に対ソ連軍と闘った戦士の面影を隠し、地方都市に逃れ教師の仮面をかぶる佇まいがある。
終始二コリともしない。
50年代スターリンソ連の圧政下の雰囲気が、街の画面の随所に現れる。カメラの被写界深度を操ってパンフォーカスとボケの妙で主人公の心象風景をわからせる。音楽が控えめだけど刺さるね。
4日前に見た「狂い咲き」何とかの音の使い方とは180度違う。監督は多民族ヨーロッパの文化人だね。クラシック風がマッチする。
同僚の女教師との恋模様、子供たちとの信頼感を縦軸に、身に迫る危機のサスペンスを横軸に、行ってはいけないレニングラードへ向っていく。
至る所にドラマチックを配置しながらも大げさなハリウッド的表現を排して、抑制された空気感で統一させ、ラストへ導く手腕は見事。
子供たちは成長し、主人公は逃げず、彼も成長し、穏やかな希望のエピローグに。
邦画の子供はチャラチャラしてるか、バカの様に見える分
スクリーンの真剣な子供たちの眼差しには浄化される。
私はサムライなので(そのつもり)
「こころに剣士を」はタイトルだけで刺さる。
明日から早朝庭に出て木刀で素振りしたくなった。
90点
映画「狂い咲きサンダーロード」1980年 オリジナルネガ・リマスターデジタル再上映 監督:石井聰亙
2017年最初の映画は、石井聰亙が1980年に日本大学在学中に公開されたものでデジタル修復されたニュープリント版だ。
一部マニアでは日本版「マッドマックス 怒りのデスロード」と評価する向きもあり、2015年最高作品として評価しているのでこれは見ておかないいけない。
監督は福岡出身なので36年ぶりの凱旋公開なので、上映後の監督の挨拶、トーク、質疑があり、場内はリアルタイムで見た中年らと若者で満員。
たまに映画ファンと一体になってイベントとして楽しむのもいいもんだよね。
私は1980年公開時は見ていない。
当時は2本立てが多くて「サンダー」はサブで、メインは当時大人気の多岐川裕美の方だった記憶がある。職業監督鈴木則文が学生に負けることは東映の筋が通らない。
それでも16ミリで撮られた学生映画が大手映画会社で35ミリにされて全国一斉上映されるとは事件だったはず。
当時石井は22歳だよ。学生だよ。これは凄いこと。
80年版がどう評価されたかは知らない。
21世紀に入り、一部映画ファンでカルト人気に密かに火がついていた頃、2015年、逸失したと思われていた撮影当時の本編16mmネガフィルムが発見される。
それは当時のままを鮮やかに、素晴らしい画質で再現するものの、経年による埃や汚れ、キズも同時に発見。そこでクラウド・ファンディング手法で奇跡的に蘇る。
あらすじ)
暴走族“魔墓呂死”の特攻隊長・仁は、「市民に愛される暴走族」を目指す同輩や自分たちを取り込もうとする政治結社に反抗を試みた末、遂には右手を切断されてしまう。しかし、どん底に堕ちてなお抗うことをやめない彼は、バトルスーツに身を包み、幻の街サンダーロードで最後の決戦に挑むのだった!
冒頭、水中の何かわからない生き物から、どっかの活火山に飛んでシュール表現で驚かす。タイトルまでの遊び心は実にいい。
しかし「掴み」のアクションがないので敵対グループも魔墓呂死も存在感がない。
皮ジャン、ジーンズ、リーゼント、バイク、粗暴感の5点セットの登場人物ばかりで組織としての社会との立ち位置が見えない。構成員のキャラはもっと見えない。
ここが「マッドマックス」とは大きく違う。警察側マックスもギャング団もキャラ立りが十分に見えるので楽しい。
敵が強ければ強いほど観客の勝手な想像は高まるし、対立は深いほどメリハリが効く。
ドラマチックとはそういうこと。
学生とかプロとかは関係ない。
ドラマのない物語の中で、主役の山田辰夫は確かに印象的なセリフをどんどん吐いていく。 が言い回しが早く、滑舌が悪い。音が聞き取りにくく饒舌に過ぎる。
10代のチンピラ集団なのだからリアルと言えばリアルだろうけど。
主人公のキャラさえ全くわからないのだから共感などしようもない。
開始15分で、なんか肌が合わないと感じたら急激に睡魔に襲われ10分以上寝てしまった。気をとり直した後は途中で退席しようとも思ったが最後まで見た。
がホモセクシャルを伺わせる表現が中途半端だ。
パンク音楽好きな監督の趣味は理解するが曲が多すぎてうるさい。
詞の世界が映像の邪魔している。
街中の暴走や、廃墟のシーンに見るものがあったが、思ったよりも映像が暗くてスピード感はあるが、抜け感がない。
例えば
キューブリック「時計じかけのオレンジ」の近未来感
スコセッシ「ミーンストリート」の暴力
ジェームズ・キャメロン「ターミネーター」の追っかけ殺人ロンド形式
塚本晋也「鉄男」のようなエッジの効いた二度と見たくない妄想感
一流の監督に必ずある、突き抜けたものがない。
22歳の若き90分の熱量を感じた以外はね。
それにしても多くのスタッフ・キャストを巻き込んだ映像作品をクリエイティブしたエネルギーに敬意を表する。この人の活躍が多くの若者を刺激したことは間違いない。
終了後の監督トークはとても真剣かつ誠実で、真摯な人柄と映画愛はよく伝わった。
新作の話も「ここだけですよ」と断ったので詳細は書けないが期待する。
「シン・ゴジラ」以降観客のいわゆる社会派映画を見る目は変わったはず。
このタイミングだから石井の出番だと思う。
彼の描く近未来を見たい。
70点
次回鑑賞予定「こころに剣士を」