映画「狂い咲きサンダーロード」1980年 オリジナルネガ・リマスターデジタル再上映 監督:石井聰亙
2017年最初の映画は、石井聰亙が1980年に日本大学在学中に公開されたものでデジタル修復されたニュープリント版だ。
一部マニアでは日本版「マッドマックス 怒りのデスロード」と評価する向きもあり、2015年最高作品として評価しているのでこれは見ておかないいけない。
監督は福岡出身なので36年ぶりの凱旋公開なので、上映後の監督の挨拶、トーク、質疑があり、場内はリアルタイムで見た中年らと若者で満員。
たまに映画ファンと一体になってイベントとして楽しむのもいいもんだよね。
私は1980年公開時は見ていない。
当時は2本立てが多くて「サンダー」はサブで、メインは当時大人気の多岐川裕美の方だった記憶がある。職業監督鈴木則文が学生に負けることは東映の筋が通らない。
それでも16ミリで撮られた学生映画が大手映画会社で35ミリにされて全国一斉上映されるとは事件だったはず。
当時石井は22歳だよ。学生だよ。これは凄いこと。
80年版がどう評価されたかは知らない。
21世紀に入り、一部映画ファンでカルト人気に密かに火がついていた頃、2015年、逸失したと思われていた撮影当時の本編16mmネガフィルムが発見される。
それは当時のままを鮮やかに、素晴らしい画質で再現するものの、経年による埃や汚れ、キズも同時に発見。そこでクラウド・ファンディング手法で奇跡的に蘇る。
あらすじ)
暴走族“魔墓呂死”の特攻隊長・仁は、「市民に愛される暴走族」を目指す同輩や自分たちを取り込もうとする政治結社に反抗を試みた末、遂には右手を切断されてしまう。しかし、どん底に堕ちてなお抗うことをやめない彼は、バトルスーツに身を包み、幻の街サンダーロードで最後の決戦に挑むのだった!
冒頭、水中の何かわからない生き物から、どっかの活火山に飛んでシュール表現で驚かす。タイトルまでの遊び心は実にいい。
しかし「掴み」のアクションがないので敵対グループも魔墓呂死も存在感がない。
皮ジャン、ジーンズ、リーゼント、バイク、粗暴感の5点セットの登場人物ばかりで組織としての社会との立ち位置が見えない。構成員のキャラはもっと見えない。
ここが「マッドマックス」とは大きく違う。警察側マックスもギャング団もキャラ立りが十分に見えるので楽しい。
敵が強ければ強いほど観客の勝手な想像は高まるし、対立は深いほどメリハリが効く。
ドラマチックとはそういうこと。
学生とかプロとかは関係ない。
ドラマのない物語の中で、主役の山田辰夫は確かに印象的なセリフをどんどん吐いていく。 が言い回しが早く、滑舌が悪い。音が聞き取りにくく饒舌に過ぎる。
10代のチンピラ集団なのだからリアルと言えばリアルだろうけど。
主人公のキャラさえ全くわからないのだから共感などしようもない。
開始15分で、なんか肌が合わないと感じたら急激に睡魔に襲われ10分以上寝てしまった。気をとり直した後は途中で退席しようとも思ったが最後まで見た。
がホモセクシャルを伺わせる表現が中途半端だ。
パンク音楽好きな監督の趣味は理解するが曲が多すぎてうるさい。
詞の世界が映像の邪魔している。
街中の暴走や、廃墟のシーンに見るものがあったが、思ったよりも映像が暗くてスピード感はあるが、抜け感がない。
例えば
キューブリック「時計じかけのオレンジ」の近未来感
スコセッシ「ミーンストリート」の暴力
ジェームズ・キャメロン「ターミネーター」の追っかけ殺人ロンド形式
塚本晋也「鉄男」のようなエッジの効いた二度と見たくない妄想感
一流の監督に必ずある、突き抜けたものがない。
22歳の若き90分の熱量を感じた以外はね。
それにしても多くのスタッフ・キャストを巻き込んだ映像作品をクリエイティブしたエネルギーに敬意を表する。この人の活躍が多くの若者を刺激したことは間違いない。
終了後の監督トークはとても真剣かつ誠実で、真摯な人柄と映画愛はよく伝わった。
新作の話も「ここだけですよ」と断ったので詳細は書けないが期待する。
「シン・ゴジラ」以降観客のいわゆる社会派映画を見る目は変わったはず。
このタイミングだから石井の出番だと思う。
彼の描く近未来を見たい。
70点
次回鑑賞予定「こころに剣士を」