映画「散歩する侵略者」(監督:黒沢清 長澤まさみ、松田龍平、長谷川博己)日常ホラーの帝王がSFでも半径50mの静かな侵略を成功させる。この不穏な空気を感じられる人は幸せだ。
「エイリアンコバなんとか」の出来の悪さが我慢出来ず
江戸のカタキは長崎で討つので、珍しく1日2本目となった。
いつものど田舎シネコンの、いつもの最上段右側辺りで
少ない観客と一緒に黒沢清の新作を見る幸せを
どう表現したらわかってもらえるかな。
毎朝の厚切トーストとスクランブルエッグ、ブレンド珈琲の
絶対安全な食品と、絶対安心なメニューが、絶対の朝を迎えさせてくれる
・・みたいな。
黒沢の場合は、「絶対の不穏」なんだけどね。
宇宙で恐怖を見せてくれた巨匠と
日常生活で恐怖を追求した職人との対決だ。
これは至福の時間に違いない。
世界のリドリーより、我らがキヨシ
あらすじ)
数日間の行方不明の後、不仲だった夫がまるで別人のようになって帰ってきた。
急に穏やかで優しくなった夫に戸惑う加瀬鳴海。
夫・真治は会社を辞め、毎日散歩に出かけていく。一体何をしているのか…?
その頃、町では一家惨殺事件が発生し、奇妙な現象が頻発する。
ジャーナリストの桜井は取材中、天野という謎の若者に出会い、
二人は事件の鍵を握る女子高校生・立花あきらの行方を探し始める。
やがて町は静かに不穏な世界へと姿を変え、事態は思わぬ方向へと動く。
「地球を侵略しに来た」真治から衝撃の告白を受ける鳴海。
当たり前の日常は、ある日突然終わりを告げる・・・
映画冒頭、コメディタッチの掴みが秀逸だ。
宇宙人1号になる恒松祐里はさっぱり知らないが存在感が抜群。
これは第2の有村か、高畑か?
確かな演技で堂々としていて素晴らしい。
主演3人を囲む市井の人達キャストがいい。
半分が侵略され、何かの概念を奪われる。
前田敦子の自然さ。
黒沢作品に出るときだけ輝くのは何故だろう?
東出は侵略されないが、教会の牧師で何か変。
宗教に既に侵略されている設定なのか?
とてもピュアな役をやらせるといい役者だな。
名優となったアンジャッシュ・小嶋の出番は覚えてないので
多分私が睡魔に侵略されていたのだろう。
日本のどこかの街で繰り広げられる日常生活に
宇宙人が現れ、概念を奪っていく。
政府に何かを要求するでもない。
宇宙船もない。
だから軍隊もなければ政治家もヒーローも、ヒロインもいない。
名もない市民(侵略者となった3人とそのガイドと被害者)がいるだけ。
しかし、静かに侵略は広がる。
故に、喫茶店で人類の生きるか死ぬかが静かに語られる。
"とんでもないことが、すぐそこで起きている"
他に類を見ない、面白さ。
昨年のベスト「シン・ゴジラ」が怪獣を描くと思わせて為政者と彼らの統治システムを見せる実験を行った。
このドラマは見えない侵略者を半径50mくらいの日常生活で描く実験を行った。
どちらも日本映画史に残る1本となる。
両方に主演した長谷川博己がスクリーンでどこへ向かうか楽しみだ。
つまらないTVドラマ出て欲しくないね。
役所広司のように映画のスクリーンで主役だけやって欲しい。
才能ある映画人とだけ仕事をすべきだ。
松田龍平は最初から宇宙人的な無重力感が前からあってハマり役
主婦・長澤まさみもいい。
音楽の林祐介スコアが抜群に映像と合っているし
この3人が暮らす田舎さが絶妙だ。
東京もNYもロンドンも出てこない、世界のどの街でも起こりうる不気味さ。
随所に吹く風の黒沢調なこと。
「不穏」・・・日本語にしかない微妙な空気が
世界の映画ファンを侵略する・・・なんと素敵なことか。
WOWOWではスピンオフドラマがまもなく黒沢演出でスタートする。
オリジナル脚本とか原作ありの脚色とか関係ない。
何が恐怖で、それをどう見せるか?
新たな領域に進んだ。
唯一無二の表現を求める志の高さ
芸術家とはこういう人のことを言う。
ホラーの枠をまた広げる黒沢清2.0を見た。
今年の日本映画のベストである。
100点
さらばリドリー、悲しきエイリアン