映画「哭声/コクソン」ナ・ホンジン監督 荒削りパワーのクァク・ドウォンとフンドシで森を駆け抜ける國村隼は「地獄の黙示録」カーツ大佐の存在感を超える面白さに負けた
なかなか韓国映画を見る機会はないが、國村隼が出るサスペンス・・・これは何か映画の至福が降りてきそうな予感がぷんぷんする。
あらすじ)
平和な田舎の村に、得体の知れないよそ者がやってくる。
彼がいつ、そしてなぜこの村に来たのかを誰も知らない。この男につい ての謎めいた噂が広がるにつれて、村人が自身の家族を残虐に殺す事件が多発していく。そして必ず殺人を犯した村人は、濁った 眼に湿疹で爛れた肌をして、言葉を発することもできない状態で現場にいるのだ。事件を担当する村の警官ジョングは、ある日自分の娘に、殺人犯たちと同じ湿疹があることに気付く。ジョングは娘を救うためによそ者を追い詰めていくが、そのことで村は混乱の渦となっていき、誰も想像できない結末へと走り出す・・・
地方の村と山しか出てこない。故に緑が多く、美しい。
黒沢清フィルムと似ている。
この感じは好きだな。映画に落ち着きと狂気を与える。
警官ジョングを演じるクァク・ドウォンが魅力的だ。
妻と義母に弱い、情けない、仕事が出来そうにない普通の太った警官のおじさんだけど娘を愛している。渥美清とかフランキー堺の様な昭和の荒削りさと人間力が匂う。
こういう人が主役をやる映画は好きだな。
日本映画も含めてあまり三枚目主演映画は劇場公開されない気がする。
美男美女ばっかりじゃね。
そして謎の日本人役の國村隼。冒頭シーンからもう世界を作っているな。
こういう凄い役者だったのか。
日本映画では気のきいたセリフを必ず言わされる重みのあるバイプレイヤーだけど
今回は韓国語を話さず孤立した存在なので彼の出るシーンだけサイレントになる。
何を考えているのか、どういう過去なのか背景なのか何の説明もない。
これがいい。
娘の異常行動から物語は別の方向へ向かう。
悪霊、エクソシスト、ゾンビ、悪魔・・・
間抜けな警官と仲間たちによる科学捜査を無視した不思議な復習劇
細かな伏線は回収されたかどうかは1回ではわからなかった。
すっきりなんて決してしない。
敢えて語らないスタイル
しかし國村隼の存在感が圧倒的で
コッポラの傑作「地獄の黙示録」カーツ大佐(マーロン・ブランド)に匹敵する。
ベトナムのジャングルには攻める者には戦闘ヘリもナパームもマシンガンもある。
相手には弓矢がある。
この韓国の森に武器はない。
何か得たいの知れない魔力のようなものを感じる。
周囲にたてまつられた神ではなく、すぐそばに住んでいる悪魔的な者の恐ろしさ。
人間と悪魔の線引きの曖昧さを描いたのだろう。
最初に見た勧告映画は確か「シュリ」だった。
南北対立のスリルと恋愛模様がサスペンスを高めハリウッド映画によく似ていた。
以降、多くの映画人を国策でアメリカに送り学ばせたようだが、俳優のパワーとシナリオ、演出の力は素晴らしい。
ナ・ホンジンのキャリアは知らないが、それらの流れとは違う独立峰の感がある。
予測不能、ジャンル分け不可能、見えない社会の井戸を腕力で覗かせるようだ。
過去作も今後も見ておく必要がありそうだ。
85点