批評サムライ  ~映画・ドラマ・小説・エンタメ ★斬り捨て御免!~

責任が何でも曖昧なこの国で娯楽くらいは白黒ハッキリ!大作も小品もアダルトも興業収入も関係ない。超映画批評にない「上映途中の居眠り」が特技。シネマハスラー・宇多丸氏やたまむすび・町山智浩氏のブログを見習って公開初日最速レビューを心掛け、評価は点数制。みうらじゅんとカンパニー松尾をリスペクトするフォトグラファーがお届けします。

映画「この世界の片隅に」 片渕須直監督 のん(能年玲奈)原作:こうの史代 音楽:コトリンゴ

今日時点で福岡県でも2館しかやっていない。
爆買い中国人がまだ多いショッピングモール内を抜けて到着すると、さすがに話題作だけあって、平日金曜15時でもかなり混んでいる。
久しぶりに私が真ん中で見ず知らずのおっさん3人並ぶ図に。

f:id:kudasai:20161118212201j:plain

あらすじ)

第2次世界大戦下の広島・呉を舞台に、大切なものを失いながらも前向きに生きようとするヒロインと、彼女を取り巻く人々の日常を生き生きと描く。

昭和19年、故郷の広島市江波から20キロ離れた呉に18歳で嫁いできた女性すずは、戦争によって様々なものが欠乏する中で、家族の毎日の食卓を作るために工夫を凝らしていた。しかし戦争が進むにつれ、日本海軍の拠点である呉は空襲の標的となり、すずの身近なものも次々と失われていく。

f:id:kudasai:20161118213318j:plain

昭和10年頃から太平洋戦争直後までの田舎の少女から大人になるまで日常と非日常を詳細にスケッチしていく。画面に描かれる情報量にまず驚く。ジブリ映画には明らかにない昭和アニメカラーというか”淡い”感じが懐かしさを醸し出す。

f:id:kudasai:20161118220236j:plain

主人公すずの声を能年玲奈(のん)が担当

みためは中学生で色気もセクシーも全くかんじない彼女だが

8,9歳頃から主婦になるまでここまで心情豊かに吹き替えできるのか?

人妻の艶までも表現できてる・・天職だな彼女は女優が。

f:id:kudasai:20161118221448j:plain

そして「絵描き」が大好きな主人公の心象風景が随所にインサートされ、これが物凄い効果をあげてくる。思春期少女の妄想、恐れ、希望・・・

f:id:kudasai:20161118220834j:plain

特にアメリカの空爆時の空に浮かぶタッチは本当に凄い。

この辺りの映像はアニメだからこそ残像が残る。

そして最大の悲劇に本編のタッチと全く違う技法を使い、次元の違うクリエイティブを見せる。この大胆さに参った。
黒澤明の名言「悪魔のように細心に。天使のように大胆に。」を思い出す。

これはアニメ芸術の極北としか言いようがない。

f:id:kudasai:20161118221423j:plain

完成度の高さは「君の名は。」と双璧で2016年の夏と秋に生まれたことは、もしかしたらスタジオ・ジブリのクリエーター部門解散に伴う技術拡散の福音なのかもしれない。

しかし史実に基づくわずか80年前の、戦争に翻弄される日本の庶民を描く重さはこれまでのアニメにはなかった。海軍・軍艦の町、呉が美しい戦前回帰ではなく、メッセージのある反戦映画でもない。

 

少女の言葉、イメージ、体験の積み重ねから、自然と戦争を考える

壮絶な歴史の体験と、ゆるーい空想少女が大人になる面白さの絶妙なバランスというかアンバランスが心に刺さる。

 

音楽のコトリンゴは初めて聞いたが

この1960年代後半につくられたフォークソングが合っている。

「やりきれない」という庶民の想いがね。

f:id:kudasai:20161118222319j:plain

片渕須直なんて初めて聞いた。
庵野、新海だけじゃなく隠れた本物がまだまだいるようで邦画の復活元年だと思う。手塚治虫を第1とすると、第2世代宮崎駿の引退が、映画界にいい影響を及ぼしている気がする。(また長編復活するらしいが)

 

90点(冒頭20分くらい寝てしまい採点不可の為)