「夫のちんぽが入らない」 こだま著 (Amazon予約可『なし水』加筆単行本)
数年前からネット上で密かに(堂々となのか)ささやかれる
「こだま」伝説。
主婦であり、ライターであり、ブロガーであり
その文章力、読ませる力、読後感の殺伐は並みではない。
これが作家だ。
プロとかどうかとか関係ない。
文章が勝手に躍動するのだ。
その彼女が満を持して、年明け作家デビューを果たす。
想像して欲しい。
この本を書店員が並べる可笑しさ
読者が手に取る時に、周囲へ悟られないような仕草
レジで差し出す際の「俺じゃないよ。頼まれただけなんだ」感の装い
「あのー、夫の入らない、下さい」と勝手に中抜き短縮させる姑息さ
この本はタイトルだけで
日本中の書店で読者による一人コントが生まれそうな予感が楽しい。
アダルトや官能小説ではない完全実話で
空前絶後のタイトルは日本出版史を変える
「読みたいんだけれど買いにくい本大賞」があれば
ぶっちぎりの優勝だろう。
自主出版デビューが傑作エッセイ「塩で揉む」
大手出版社(=アマゾンで買える)デビューは今回(2017年1月)が初
2014年5月に開催された「文学フリマ」では、同人誌『なし水』を求める人々が異例の大行列を成し、同書は即完売。その中に収録され、大反響を呼んだのが主婦こだまの自伝『夫のちんぽが入らない』だ。 同じ大学に通う自由奔放な青年と交際を始めた18歳の「私」(こだま)。初めて体を重ねようとしたある夜、事件は起きた。彼の性器が全く入らなかったのだ。その後も二人は「入らない」一方で精神的な結びつきを強くしていき、結婚。しかし「いつか入る」という願いは叶わぬまま、「私」はさらなる悲劇の渦に飲み込まれていく……。 交際してから約20年、「入らない」女性がこれまでの自分と向き合い、ドライかつユーモア溢れる筆致で綴った“愛と堕落”の半生。“衝撃の実話”が大幅加筆修正のうえ、完全版としてついに書籍化!
冒頭から唸らせる。
この出だし、リズム、簡潔、潔さ、ユーモア・・・・あれだ。
日本人なら義務教育で必ず読まされる
「坊ちゃん」(夏目漱石著)だ。
没後100周年の2016年 、文壇に遂に後継者が現れた。
しかもそのタイトルが、「夫のちんぽが入らない」
キーを打つ手が嫌になる。
大漱石も目が点だと思う。
でも仕方ないのだ。
明らかにその作品世界は同根としか思えない。
私は尊敬を込めてこう言いたい。
こだまは、下町の女漱石と。
この話は市井に生きる女性の家庭内の小事かもしれない。
しかし 20年に及ぶ、誰にも言えない、相談できない悩みは
夫婦、生殖、性欲という人の根源にかかわる歴史的、普遍的、本質的な問題提起であり
巨根(巨大なペニス)を持つ男性にとって大事件である。
その明晰で、精緻な文体により当事者だから語れる世紀(性器)の本である。
これは読みたくなる。